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 LET THERE BE LOVE
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6.彼女

単純に居心地がいい、と私は思った。
そしてその事はとても意外で、他人に対してそんな風に感じたことはこれまでにないことだった。

ひと晩中キスされて、私は彼の唇に慣れつつあった。
蓮城が醸し出す雰囲気にも慣れてきた。
彼の…どこか儚げな存在感。
フワフワしていて、それでいて冷たく乾いている。

(やっぱり似ているのかも知れない…)

他人から見れば蓮城と私は全く違った人間に見えるだろう。
それなのに、本質的な部分の共鳴を感じる。
彼のことなんて全く分からないというのに。


手を伸ばして、頻繁に私に触れてくる彼。
一緒にいるときの口数は多くは無かったけれど、触るこの感触に安心した。
(不思議……)
彼を求めていたわけじゃない。
それなのに、離れて無意識に見てしまっていたつい昨日の状況よりも、こうして近くにいる方がずっと良かった。


「今日も泊まっていけば?」

蓮城の言葉に私の気持ちも揺れる。
彼と過ごす時間を楽に感じる分、自宅へ帰る現実を考えると気が重くなった。
すっかりギクシャクしてしまった母と私の仲。
擬似でも親子関係なんてとうに崩壊しているというのに、私を束縛しようとする義父。
体裁にうるさい二人だったから、深夜の帰宅をよしとしない二人。
そのお陰で外泊に関しては寛容だった。
それでも養父は頑なに私が家を出ることを許さない。
まるで罪を背負えと言わんばかりに、その存在で私を苦しめる。

「………」

私は迷った。
自宅に帰りたくないう気持ちと、こうやって蓮城に甘えていていいのかという疑念。
天秤にかけるまでもなく、ここでこうしていたい気持ちの方が勝ってしまう。
キスされて、側にいて……この状況ではむしろセックスしない方がずっと不自然だった。
私がこのまま拒めば、彼は勿論何もしてこないだろう。
そして私が許容しても、人の気持ちを簡単に読んでしまう蓮城なら昨晩同様何もしてこないだろう。
そんなに自分の都合よく、彼の側にいていいものか。

彼はゆったりと時間を過ごす男だった。
時計を気にするでもなく、なんとなく過ごしているだけでもう外は暗くなり始めていた。

「家の門限がうるさいなら、もう泊まるって連絡しちゃえば?」
「だけど……、蓮城くんは……いいの?」
「オレは全然いいさ」
私から少し離れて、雑誌を読んでいる彼が顔を上げる。
私は自分の持参した文庫本を膝に置いた。
一緒にいても、こうして各々が別々のことをしていた。
「………」
とりあえず、母に連絡だけでも入れてみようと思い、携帯を握った。


今朝早くに出張で出て行って、来週半ばまで義父は帰って来ないとのことだった。
義父は全国で指導する立場だったので、地方の病院に行くと何日も帰ってこない事がよくある。
「………」
それでも私は母と二人きりになるのも気が重く、結局どうであれ家族が家にいる限り、私にとってあの場所は心休まる所ではなかった。
それでもあの人がいないとなれば、外泊するのにも気が楽になった。

「ごめん……やっぱり今日も泊まっていい?」

「いいよ。で、水曜までお父さん帰ってこないの?」
私の電話を聞いていた蓮城が言った。
「うん」
「紗羽がいられるなら、それまでずっとここに泊まってくれてもいいけど?」
「それは……」
さすがにそれはないだろうと思った。
蓮城にだって迷惑だろうし、私だって他人とそんなに長い時間二人きりで一緒にいたことがない。
「そこまではさすがに嫌、か」
にっこりと笑う彼。
私が答えを返す間もなく、彼は立ち上がって言った。

「ま、とりあえず今夜の事は落ち着いたし、今日は外に食べに行こうか」


こぎれいで家庭的な感じのする洋食屋で食事をして、私たちはすぐに帰宅した。
私はなぜだか昨晩よりも緊張していた。
「やっぱり……こんな風に泊めてもらうのって迷惑じゃないの?」
私たちはソファーに並んで座っていた。
テーブルには彼の入れてくれたコーヒーがよい香りと一緒に湯気を立てている。
「全然」
相変わらずの、優しくみえる笑顔で蓮城は私を見た。
一見、人懐っこい表情。
外面を作り上げた時の彼の本心は読みきれない。
「でも……」
昨日のようにキスされ続けるのだろうか。
そうなってしまったら、あの状況で二晩も彼の欲望を解放しないというのは気が引けた。
そういう意味でも、申し訳なくなってくる。
「…もし紗羽が、オレがいるのが嫌だってんなら、オレ、友だちのとこにでも行こうか?」
「え」
「ここを好きにしたらいいよ」
先ほどと変わらず優しい笑顔を浮かべる彼。
こんな風に蓮城に気を使わせている事に、罪悪感を感じてしまう。
「ごめん、そんなんじゃないの……ただ…」
その先、何と言っていいのか言葉に詰まった。

「……?」
彼は私の言葉を待っている。

「……ほんとに、悪いなって思って……」

「はは」
蓮城が唐突に笑った。
「な、何?」
私は戸惑った。
彼は私の頬に手を伸ばしてくる。
耳から顎にかけて、そっと触れながら真っ直ぐ私を見た。
瞳の奥の冷たさが見え、私は緊張してドキドキしてしまう。

「資料室でオレが紗羽に声をかけた時のこと、覚えてる?」
「………」
私は黙って頷いた。
「『蓮城ってロクでもないヤツ』って思っただろ?」
「………」
彼の真意が分からず、私はただ蓮城の言うことを聞いた。
「頭のいい紗羽なら分かってると思うけど……オレってそんなにいい奴じゃないから」
蓮城はまた微笑む。
しかしその次の瞬間に見せた表情は、例の氷のようなものだった。
「オレがどうしようもないヤツだって……分かってたんだろ?」
「………」
表情の向こうに更に見える深い乾きに、私は動けなくなってしまう。

「分かってたんだろ?」

ゆっくりと、念を押すように言う彼。
それは私にというよりも、自分自身に言っているような気がした。


「分からないわよ」

頬に触れる彼の両手。私は自分の手でそれを振り解いた。
「あなたがどんな人なのか……私には分からない」
「………」
蓮城は少し驚いたようで、いつもの表情へと戻っていく。
「分かってんだろ…?分かってるって顔でオレの事見てただろう」
彼は珍しく苛立ちを見せた。
「分からないわよ」
私はキッパリと言った。

「………」
「………」

蓮城の戸惑った顔は、恐らく私の表情をも映していたんじゃないかと思う。
私自身も戸惑っていた。
(彼がどんな人間であろうとも、私は…)
自分自身から湧き出す感情に驚くとともに、それをはっきりと認めていた。

「だけど、あなたの事……イヤじゃないから」

「はあッ?」
蓮城があきれたように声を出した。
「ちょっと待てよ……、ウケる」
彼は小さく笑った。
そしてニヤニヤしながら何かを考えている様子だった。

「まあ、いいか……」

一度コーヒーを飲むと、彼はソファーに深く沈んだ。
「じゃあ、もうオレの彼女ってことで決定」
「え、な、何よ……それ?」
「めんどくさいじゃん、色々と理由つけたり考えたり……」
「………」
「お互い一緒にいて嫌じゃないんだから、いいじゃん……だろ?」
「だろ、って……」
「一緒にいたいと思ってるんだから、理由なんて…いいだろ」
(一緒にいたいと、思ってる………)
心の中で彼の言葉が自分の声と重なり、なぜか胸の奥に落ちていく。


「紗羽」

私の名前を呼んだ蓮城の声は穏やかで、彼への恐怖心があっという間に消えさってしまう。
次の瞬間、彼の唇が私の言葉をふさいだ。



シャワーを浴びて彼のベッドに入る。
昨晩と同じシチュエーションなのに、どうしてだか今日はドキドキしていた。


「髪、ホントにきれいだよな…」
私に覆いかぶさるように体を傾けながら、蓮城が囁く。
「んっ……」
昨晩から何度も何度もキスされたおかげで、私は自然と目を閉じるようになっていた。
「………」
胸がザワザワする。
蓮城の舌や唇がこんなにも柔らかかったのかと、改めて知る。
昨日は思わなかったのに、私は逃げ出したいような衝動にかられた。
落ち着かない。
彼の腕を振り払って、ベッドから離れたかった。

「うっ………」

彼の舌がもっと深く入ってきて、私は息が詰まる。
思わず顔をよけて、咳き込んでしまった。

「あ、悪い…」
蓮城は体を起こして、私から少し離れた。
「だいじょうぶ…」
私も起き上がった。
なんだか落ち着かなくて、いてもたってもいられないような気持ちになっていた。
「紗羽…」
彼の手が私の首筋に触れた。
その手がゆっくりと下がってきて、彼の指先がほんの少しだけ私の胸に触った。
思わず私はビクンとなってしまう。

「お」
蓮城が嬉しそうに私の顔を見た。
「何よ」
「別に」
薄笑みを浮かべながら、彼は手を伸ばしてくる。
部屋着越しの私の胸の先を、蓮城の指がつまむ。
「ちょっと」
私は露骨にイヤな顔をして身を引いた。
「ははは」
それでも彼は嬉しそうにしている。
近づいた蓮城にキスされて、結局押し倒された。

「あっ……」

その勢いで、私の手が彼に当たってしまう。
「ごめんっ」
思わず謝っていた。
「いいよ、別に」
そう言う蓮城は笑っている。
私の手が触れた場所は彼のその部分で、そこは少し触れただけでも分かるほど固くなっていた。
「謝るんだったら、逆に触ってみてよ」
強引に手を引っ張られ、その場所に触らされる。

(ええっ……)

それは私が経験したモノとは全く別の猛りを持っていた。
(こんなに固くて大きいの……?)
ただ触れただけでもその形がハッキリと分かる。

「ヤダ……」
つい手を引っ込めてしまった。
穏やかな声で蓮城が囁いてくる。
「紗羽はさ……」
「うん?」
「経験ないわけじゃないよね」
「……うん」
私は小さく頷いた。


「…脱がしてもいい?」

「…………」
迷ったのは一瞬で、私は頷いていた。



私を裸にすると、彼も自分の服を脱いだ。
明かりは点けたままだったから、彼の姿も自分の姿も見えてしまう。
体を起こしたままで、私と彼の間には距離があった。
蓮城は私をじっと見ている。
私も、目の前の裸をイヤでも見てしまう。
彼のそれが目に入る。
こんなものが体に入ってしまうなんて、全く想像できない。

(怖い……)

セックスなんてどうでも良かった。
ただ男の欲望を受け入れ、目を閉じて終わるのを待つだけだった。
入ってくる感触に感慨もなく、ただ物理的な行為というだけだと思っていた。
そこは真っ暗で、ただ時が過ぎるのを感情を殺して待つだけだ。
そしていつからか、感情を完全に手放していた。
(だけど…)

私は今、こんなに明るい部屋で、自分の体をさらけ出している。
目の前にいるのは蓮城で、彼もまた裸だ。
すぐに触れてこない彼。
私は目を閉じて逃げることも許されず、彼の視線を受けとめるしかない。
どうしていいのか分からない。

「ねえ……そんなに見ないで」
「いいじゃん」
「だって……」

困っている私を彼は喜んでいるようだった。
「…触って欲しいの?」
「そんなんじゃないけど…」
「じゃあ、触って欲しくないの?」
蓮城は全然恥ずかしくなさそうに、全裸のままこちらを見て普通にニヤニヤしている。
「……分からない……」
本当を言うと、触って欲しいというわけじゃない。
だけど、こうしてじっと見られているよりはずっとマシだと思った。
触られて、入れられて……その行為がすぐに終わってくれた方がいいと思った。


「ねえ、オレにキスしてよ」

「えっ」

「昨日からオレがしてばっかりじゃん、紗羽がオレにキスしてよ」
「………」
こんな裸のまま、それも私からキスするなんて。
しばらく黙っていたけれど、蓮城がそのまま私をジロジロ見て喜んでいるのがイヤで、仕方なく身を乗り出した。

「……んっ」

彼に唇を合わせた。
自分からこんな風に誰かにキスしたのは初めてだという事に改めて気付く。
彼にまたがるような格好になった私の足の間に、彼が足を入れて更に開いていく。
蓮城から唇を離そうとしても、彼に抑えられて離せない。

(あっ……)

そこに彼の手が触れた。
どう見てもこれからセックスをしようとしているのだから、こんな展開になるのは当然といえば当然だ。
それでも私は彼から逃れたくなる。
彼に腕を強く引っ張られて、上半身が崩れた不安定なこの体勢では思うように動けない。
倒れないように、彼に掴まれていないほうの手で、ギュっと蓮城の肩を握った。
(あっ、…あ…)
その場所を触る手の感触は、これまで知るものとは全く違っていた。
初めてこの部屋に来て蓮城に触られた時とも、全く違う。

「ちゃんと濡れてきてるじゃん」
「はあ……はあ……」
不安定な体勢で力を入れていたので、体中が力んでいた。
唇を離したとたん、思わず息が上がる。

濡れないわけじゃない。
セックスという行為が始まってしまえば、体の反射として少しは自分からも濡れてくる。
それでも今、私はすごく恥ずかしかった。

私は蓮城にまたがった体勢のままで、太ももを開かれ腰を押さえられていた。
「紗羽」
「………」
「今日は、昨日までと顔が違う」
「……そんなこと、ない…」
違うのは自分でも分かっていた。
どうしてだか、今日はすごく恥ずかしい。
(さっきから真顔で体を観察されているから…)
だけどそれ以外にも理由があることは分かっていた。
「ほら」
「あっ」
蓮城の指が私のそこに触れた。
唐突に触られて、反射的に思わず声が出てしまう。
「ほら、顔が違うじゃん」
「………」
私は首を横に振った。

「うっ……」

突起の周りを触る彼の指先の動きは柔らかく、これまで閉じていた感覚が一気に目覚めるようだった。
焦らすようにゆっくりと動く蓮城の指。
大切なものに触れるようなその動き。

「普段も可愛いけどさ」
「………んっ」
口を開くと声が出そうになる。
「今日の紗羽、すごく可愛い」
「………」
蓮城の指は止まらない。
ゆるゆると微妙な動きで、私のそこを撫でている。

(私……感じてるの…?)

もっと、触って欲しいと思っていた。
焦れるこの感覚が辛くて、もどかしかった。

「紗羽…」
「………」
私は唇を噛んだ。
「紗羽」
背中を軽く叩かれ、私は目を開けて蓮城を見た。
「オレの名前、呼んでよ」
「れ……蓮城くん……」
「じゃあなくって、下の方」
彼の指先に少し力が入る。
(あっ……)
それに呼応するように、私も少し腰が跳ねてしまう。
「ト……透……」
「紗羽……キスして」

「んん………」

私は蓮城に言われるがまま、彼にキスした。
彼の肩にしっかり両手を回し、唇を合わせる。
(ああ………)
閉じようのない足の間、蓮城の指が自由に私のそこを遊ぶ。
(うっ……ああんっ……)
蓮城の舌が私の唇を割って入ってくる。
昨晩から何度もしたキスなのに、今、すごく熱かった。


「あっ……」

唇を離されて、思わず声が出てしまう。
「紗羽、見て」
蓮城の指先は、濡れて光っていた。
「ちょっとは感じた?」
「……たぶん……」
私はぼうっとしたまま、薄目を開けてそれを見ていた。

「オレのも触ってみてよ」
「………」
素直に彼のそれに触れた。
さっき見たときよりも、更に大きく固くなっているような気がした。
(熱い………)
こんなものが私に、と改めて怖くなってくる。

「紗羽が自分で入れてみて」
「えっ?」
私は驚いて彼を見た。
「自分で、入れてみてよ」
「……えっ……」
下を見ると、彼の猛ったモノが目に入る。
(これを、入れる……?)

改めてセックスの現実を見たような気がした。
「む、無理……」
思わず私は言ってしまう。
「無理じゃないよ、大丈夫」
蓮城の手が、私の手を握り自分のモノを触らせた。
「こんなの……入らないよ…」
「入るって」
蓮城が優しい目で私を見つめている。
「こっち来て」
彼の手がしっかりと私の腰を掴んで、自分の方へ引き寄せる。
「紗羽は、オレに向かって体を下ろせばいい」

「でも……」
「ゆっくりすれば大丈夫だから」

彼の言葉に、私は迷いながらもそっと彼のモノを自分のそこに当てた。
熱いその固さ。
自分では分からなかったけれど、思った以上に私のそこは濡れていた。
経験があると言っても一方的にされていただけで、これまでは自分の感覚を閉じていた。
(分からない……たぶん……ここ…)
座るような姿勢で足をしっかり広げていたから、自然とその場所に彼のモノが引き込まれていく。



「ああっ!……」

声が出てしまう。
少しずつ、彼のモノが私へと入っていく。
彼の固さが自分の体を割っていくのを感じる。

(ああんっ……なんだか…すごい……)

「もっと、入るだろ?」
耳元で蓮城が囁く。
私は更に奥へと、自分から彼へと体を下ろしていく。
「うあ……ん…」
彼が入っているのが分かる。
私のお腹の中に、彼のあの固いモノが全て飲み込まれていく。
「ああっ!」
これ以上はもう限界、と思う瞬間があった。
「奥まで入った?」
「う、……うん」
多分そうだろうと思い、私も頷いた。
「良かった……エッチできたじゃん」
「うん……」

彼が右手で私の頬を触る。
「こっち見て」
「………」
私は黙って顔を上げた。

「……うん、可愛い」


にっこりとする蓮城の笑顔は眩しくて、彼の方が可愛いんじゃないかと思った。
「紗羽……」
今度は彼からキスしてくる。
繋がったままで交わす濃厚なキスに、私は指先までドキドキしてしまう。


蓮城は、私を乗せたまま動いた。
その先はハッキリ覚えていない。
ただ、彼にしがみつくのに必死だった。

 

   

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