泳ぐ女 STORY Message LINK

その指と唇で
←BACK 小説目次 NEXT→

2.歪む残像

私はそのままの格好でしばらく呆然としていた。
孝則の指で体ごとグチャグチャにされた後でも、私は動くことができずに足を広げ、胸を晒したままだった。

(はあ…はあ…)
体にはまだあちこちに余韻が残っている。
動きを止められた私の体に貼り付いたローターたちも、次第に私にとっての存在感を薄めていた。
孝則が私に近付いてくる。

「………」

彼は黙って私に指を伸ばす。
私は怯えながら、その動きを注視する。

「……!」

孝則は私の胸に付いているラバー素材のテープを、思い切り剥がした。
私の乳房は振れ、乳首の周りにテープが剥離された痛みが走る。
(あぁ……)
私は思わず顔をそむけ、目を閉じてしまう。
孝則の指が、もう片方の胸に伸びる気配を感じる。

ビッ

「…あぅっ!」

私は声を上げてしまった。
(どうして……)
孝則を見る。
彼も私を見ていた。
彼の冷たい瞳の向こう、もっと奥…そこに欲情のぎらつきを感じる。
私は一刻も早く、それで私自身を燃やしてくれないかと渇望する。
「痛み」まで、快感に変わっていた。

彼の視線が私の足の間に移る。
そしてまた私を見た。
(………)
その場所に貼られたテープを、勢いよく剥がされることを想像する。
(……あぁ……)
体に明らかな期待感が疼く。
それを孝則が見逃すはずはなかった。
(……や…)
触れられてもいないのに、私のそこからトロリと溢れ出してしまう。

「………ふん」
孝則が鼻で笑った。
私から零れた雫を見ているのだ。

私は恥ずかしくてたまらない。
恥ずかしくてたまらないのに、足を閉じることができない。
手で隠すこともできない。

(……あぁ……)

感じていた。
こうして見られているだけで、自分が恥ずかしい格好をしているだけで…

体中が焦れてくる。
じわじわとその部分が、更なる快感を欲している。
そのもう一つの開いた唇が、もし言葉を発することができるのなら…
想像して恥ずかしくなり、また私は興奮してしまう。

「……」
孝則がそこに手をかけた。
「……うぅ…」
私は期待で小さなため息を漏らす。

「………」
孝則は黙ったまま、私のそこに貼られているテープをゆっくりと剥がす。
毛が引っ張られる感じがする。
痛みはない。
優しく、ゆっくりとした調子で私からテープが剥がれていく。

乳首の時よりもじっくりと時間をかけて、孝則は優しくその場所のテープを剥がした。
「……はぁ…」
完全にローターがクリトリスから離れると、私は力んでいた体から力が抜ける。
「冬子さん」
「……」
孝則の声で、私は彼を見た。
彼は微笑んでいた。
分かっていたのだ。
私が激しく剥がして欲しかったことを。
痛みを期待していたことを。


手足を固定していたテープも剥がされる。
ラバーのテープはその目的のために作られたもので、剥がしても体に跡が残らない。
私はやっと足を閉じ、ぐったりしたままソファーに座っていた。
視野の隅の、裸になっていく孝則をぼんやりと意識する。

孝則は私の携帯を手にし、ベッドに寝転がった。
私は彼に促されるまま、ふらついた足でベッドに向かう。
「乗ってください」
孝則が言う。
「……はい…」
私は頷いた。
彼のものは既に固くなっていて、私はそれに自分のそこを当てる。
「…はぁ、……あぁぁぁ……」

いやらしい水音が私の頭の奥で響く。
私は孝則のペニスを自分の奥まで入れた。

セックスに相性があるということを、私は孝則との行為ではじめて知った。
孝則はすごく大きいというワケではなかった。
ただ、私と、……とても合うのだ。
「うぅ……」
孝則が私に入っているだけで、私のそこは本当に蕩けてしまうんじゃないかと思うぐらい感じている。
(気持ち、いい……)
やっと、…この快感が手に入った。
玩具で弄ばれるのも好きだが、やはり私はそれ以上に孝則自身を求めていた。
「開いて」
孝則が私の膝に触る。
私はつま先と、結合したその部分で自分の体重を支え、膝を左右に開いた。
高校までバレエを続けいていた私は、今でも体が柔らかかった。
そのまま足を完全に180度まで開く。

孝則の手が伸びてきて、私のその肉襞を両手で開いた。
「こうすると、結合してるところがよく見えますよ…」
「……」
「いいですね……冬子さんは」
彼の視線を受けるたびに、私は益々高ぶってしまう。
「動いて…」
そう言って孝則が手を離すと、私は動き始めた。

「あぁ、…あっ、あ、あぁっ!」

足を大きく開いて、私は彼の上で腰を振った。
私の中の、彼のペニスの当たり具合がとても良い。
もっともっとそこに当てたくて、私は夢中で自分の中で彼を擦る。

(ああ、…いい…いい……いい…)

私は突き上げるように自らの腰を廻す。
こんなにいやらしく動ける自分が恥ずかしくて、余計に興奮してしまう。
(きっと…孝則を汚してる…)
私から出たいやらしい液体が、…私の中の彼のペニスを滑らせる。
私は締め付ける。
孝則を離さないように。

薄っすらと目を開けると孝則が私の携帯を開いていた。
「何……?」
私は動きを緩めて、彼に言った。
体が快感の中にあって、私は動くのを止めることはできなかった。
「動画です。最近の携帯は長く撮れるんですね…。」
私を冷静に見上げる孝則と目が合う。
こんな風に見られていたなんて…。
「……だ、…だめです…」
私はゆるゆると腰を振りながら言った。
「じゃあ、止めましょうか」
孝則が一瞬携帯を持つ手を下ろした。
そして携帯を持っていない方の手を私の体に伸ばす。
「止めましょうか?」
彼は薄笑いを浮べていた。

止められるはずなんてなかった。
孝則の形は私とすごく合っていて、孝則全てから感じられる空気感も含めた感覚全てを…私は求めていた。


「止めないでください……」

私は彼に動画を撮影されるのを拒まなかった。
「キレイですよ、冬子さん…とても…」
「あぁ、…あっ、はぁっ…あぁっ……」
私は動きを戻す。
彼のペニスをギリギリまで出してから、強く自分の奥に打ち付けた。
内部の途中にある部分に当たるように、更に強く腰を振って彼を出し入れする。
「…冬子さんは、…とても、……いい」
孝則の声に快感が混ざる。
その声を聞いて、私の体のスイッチはまた一段階、上がっていく。



「あぁ、あ、あ、…あぁぁんっ」

下になって激しい彼の動きを受け止める。
もうさっきから何度となくイキそうになっていた。
それでも登りつめそうな気配だけで、実際に達するところまではいかなかった。
それがもどかしくて、私は更に彼を求めた。
「もっと……もっと…あ、…あぁ…、してっ…」
私は首を振って、ねだる。
両手をバンザイの形にされ、両手首を合わせて孝則にしっかりと握られていた。
私は孝則の手で拘束されて、犯されている。
(いい……すごく、いい……)
涙が伝ってしまう。
揺らされる体全部が、快感に震える。

「冬子さん…」
「はぁ、…うぅんっ、…んぐっ…」

唇を彼に塞がれる。
孝則のキスは、セックス同様に激しい。

(このまま、…食べられてしまいたい……)

孝則にだったら、どんな風に食べられてもいいと思う。
お互いに貪りあうようにキスを繰り返した。
血の味がする。
痛みはなかった。
目を開けた。
ゆっくりと唇が離れる。
孝則の下唇が、切れていた。
私が孝則の唇を噛んでしまったのだ。


「ご、ごめんなさい……」
快感の中、声がかすれてしまう。
血の味でさえ、良かった。
食べたいのは、…私の方かも知れない…。
切れた唇で、孝則は私にまた口づけた。


「愛してます、冬子さん…」

「私も…愛してる…」


愛し合っていないことなど、分かっていた。
こう言うと、お互いが高ぶるからだ。
分かっていて、私たちはいつも愛の言葉を交わす。

「冬子さん……」

彼の動きが速まる。
私に打ち付けられる音が、体の芯を震わせる。
「あ、…あ、あ、…あ…あっ」
私は自分の足首を持ち、大きく開いた。
ただ人形のように、私のそこは彼のペニスと繋がる。
人形と違うのは、とめどもなく溢れ、声を出していること。
(もっと突いて…もっと……ああ……もっと…もっと…)

「あ、あ、あっ…あぁんっ!も、…ダメっ!」


白くなる。
時間をかけて与えられた沢山の快感のせいで、登りつめる先は果てしなかった。



二人で某ホテルの最上階のバーに来ていた。
「疲れましたか?」
孝則が私に言った。
「ええ……」
私は目の前のカクテルグラスの足を、指先で弄びながら答えた。
そんな私の仕草を彼はじっと見ている。
冷たい孝則の視線は、いつも熱くて、…私に痛い。
彼はグラスの残りを一気に飲み干す。
店員はすぐにそれに気付き、同じものを彼に運んでくる。
濃い琥珀色の揺らぎは、見ているだけで香ってくるように美しかった。
グラスの向こうに夜景の光りが見えて、まるで夜を飲み干しているようだ。
「携帯の写真……」
孝則が静かに言った。
「……」
私は思い出して恥ずかしくなる。
「見せてください、今」

「……今?」
私は聞き返してしまった。
店内は暗かったし、客同士ある程度の間隔はあったが…こんなところで?
「今、ここで」
そう言って私に微笑む。
普段の彼は至ってスマートだった。
「………」
私は彼に逆らうことはできない。
バッグから自分の携帯を取り出す。
先ほどの写真は、見ていない。
「………」
今日の日付のフォトのフォルダを開く。

「…………」

私は小さくプレビューされた肌色ばかりのグロテスクな写真たちに、思わず携帯を閉じた。
その肌色が自分の色だと、認めたくなかった。
「見せてください」
孝則が私の手から携帯を取り上げる。

私は孝則を見なかった。
彼は黙って、携帯を操作している。
「冬子さん」
孝則は開いた携帯を私に向けた。
「…やっ…」
そこにはテープのついた女性器に、指が入っている様子が大写しになっていた。
私はすぐに目を反らした。
「よく見て……冬子さんですよ」
仕方なく私はもう一度携帯を見た。
「………」
性器が大写しになった向こうに、乳房に垂れるローターのコードが見える。
そしてその上には私の喘ぐ顔が映っていた。
なんてグロテスクな映像だろう。
なんていやらしい姿なんだろう。
「…け、消してください…」
私は孝則から携帯を取り上げようとした。
「ダメです」
そう言って孝則は携帯を一旦私から遠ざけた。

「…消して…」
私の声は懇願していたと思う。
「ダメですよ」
言葉とは裏腹に、孝則は私に携帯を返した。
「もし、冬子さんがこの写真を削除したら……」
「……?」
私は思わず携帯電話を強く握りしめた。


「今度、僕のカメラで写真を撮りますよ」


「………」
(あの淫らな映像が…)
「…それは、やめてください……」
しばらく間を置いて、私はやっと言った。
「じゃあ、消さないでくださいね」
孝則はグラスに手を伸ばし、氷の音を立てる。
彼と目を合わせずに、その指先を私は見ていた。



ロビーで、孝則が私に言った。
「明日…」
「…?」
私は彼を見上げる。

「明日、誠一と会ってセックスして……、その後、彼の車に携帯を忘れてください」

冷たい目、それでも奥に悦びの炎をちらつかせて孝則は私を見た。
「そんな……そんなこと、…無理です…」
この写真が入った携帯を、…もし誠一が私の携帯を手にしたとしても見ないであろうとしても…この携帯を誠一が手にするなんて。
「無理じゃあないでしょう?」
彼の手が私の頬に触った。
まるでそれが合図のように、私は黙ってしまう。

「…分かりました…」


ロビーを出て、別々にタクシーに乗る。
私は行き先を告げ、シートに体重をかけた。
体中が今日の疲れで重い。
それなのに、明日のことを考えて気持ちだけは冴えてしまう。
(誠一……)
帰って、明日誠一と会う約束をしなければいけない。
窓の外、流れていく都内の夜景を見た。
(孝則……)
目を閉じると、今夜のことが甦ってくる。
孝則に、撮られた…。
私は携帯を開いた。
手の中の写真たちはひどく淫靡だ。
こんな写真を見ているとは、目の前にいる運転手はまさか思わないだろう。
そして私がつい数時間前に、こんな姿で快楽に溺れていたことも想像できないだろう。
(私は淫らだ…)
もし…この関係を、誠一に知られてしまったら……。
誠一を傷つけるのは怖い。
あれほど純粋でいい人は、そうそういないだろう。
それなのに、私は背徳の行為に身を委ねている。
それは彼の親友である孝則も同じだ。

『今度、僕のカメラで写真を撮りますよ』
脅しのような彼の言葉。
孝則の手元に私との行為の証拠が残ることは、とても危険なことだ。

この写真を削除したら……。
孝則は怒らないだろうが、私をもっと責めるだろう。
誠一のいるところでも……二人きりでいる時は、もっと執拗に…。
私は背中がゾクっとする。


孝則のカメラで、写真を撮られるのも…悪くないかもしれない。 


私は携帯を閉じ、目を伏せた。
明日には…今夜孝則の欲望が吐き出されたこの体を、誠一が抱く…。
二人の男を想像して、私は息を吐いた。
 

   

←BACK 小説目次 NEXT→

著作権は柚子熊にあります。
いかなる場合でも無断転載を固くお断りします。

アクセスカウンター