はじめて孝則を見た時から、私は予感していたのかもしれない。
彼が話すときの、声が良かった。
低い声。
柔らかく、そしてなぜか時折冷たさを感じる口調。
もっと話してみたい……どんな人なのか、知りたい…。
考えていたのは、それだけだった。
他にはあまり覚えていない。
―― 私の彼氏の親友、孝則との出会い。
孝則の指が、私のそこを割って、広げる。
私は恥ずかしくてたまらない。
それなのに、私は動けない。
足を広げられた状態で、足首がしっかりとソファーの両方の肘掛にテープで巻かれていた。
両手首もテープで巻かれ、ソファーの後ろに廻されて固定されている。
私は自分の力では全く動けないのだ。
何をされようとも。
「冬子さんは、濡れやすいんですね」
「………」
孝則は私のそこを二本の指で広げ、じろじろと見ていた。
「こうしているだけなのに」
彼の視線が私の顔に移る。
目が合って、こんな姿を晒している自分を改めて恥じた。
孝則は表面的にはあくまで冷静だったが、彼の内側の興奮を私は空気で察知する。
そして、こんな行為に、…私自身も興奮していた。
「あぁっ……」
指でそこを広げたまま、彼はもう一方の手の指を入れてきた。
裸で拘束されることを望んだのは私。
孝則は私がそれを言わなくてもそうしてくれる。
彼は、私がして欲しい事を、……私が願う以上に返してくれる。
孝則は私のそこをじっと見ている。
私は広げられ、奥まで自分自身を晒す。
入れられた指先ごと視姦されているようで、私は自分が滴るのをを感じる。
「指を引っ張るたびに、零れてきますよ」
そう言って孝則は再び私の顔を見る。
「…いや……言わないでください……」
私はそう呟いて彼から目を離した。
彼がうっすらと笑うのを感じる。
ほんの少しの孝則の表情の変化―――
私はいつからかそれに気付くようになってしまった。
気付かなければ良かったのかもしれない。
だけど……。
孝則が指をゆっくりと出し入れする。
私を感じさせようとそうしているのではない。
彼はただ、私のその部分がそうなるのを見たいだけなのだ。
「あぁ…ん…」
ため息が出てしまう。
既にたくさん濡れているのが分かる。
ゆっくりとした彼の手の動き。
………孝則に、見られている。
そして私は更に感じてしまう。
孝則は指を抜いて、私から離れた。
(はぁ……)
私は心の中で息をつく。いっそ、目隠しでもされた方がいいのかもしれないと思う。
私をこんな風にしているのは孝則で、
……孝則は私の恋人・誠一の幼ない時からの親友だ。
孝則の顔を見ると、ふっと我に返る瞬間がある。
(こんなこと、していいの…?)
それでもこんなことをしている自分のこの姿は、まるで現実感がなかった。
私自身、こんなことをする自分が信じられなかった。
こうして孝則の前で足を広げて…、全てを晒して感じている淫らな自分自身が…。
孝則は道具を用意している。
どうして彼がこんなに様々なことができるのか……私はあえて聞かない。
彼は今、私にとっての全ての支配権を持っているから。
再び彼が私のそこを指で開く。
「んんっ……」
体温のないそれが、私の突起に当てられる。
そして肉の間に挟まれる。
私からはピンク色のコードが見えた。
ローターだ、と私は思う。
孝則は私を拘束した残りのテープで、ローターをクリトリスにあて、固定する。
「………」
「うあっ…」
孝則は無言でスイッチを上げる。
私の体ごと、スイッチを入れるように。
肉にしっかりと挟まれて、微弱な音を上げるローター。
緩い振動。
それでもそこが敏感な私は官能し始めてしまう。
「いや……あぁ……」
孝則はローターのスイッチから手を離し、少し離れたところで私を無言で見ている。
「うぅ……ううんっ…うっ……」
「冬子さんの、その声が、…いいんです」
その声で私は目を開けて彼を見た。
「その目つきも……いいですね」
孝則はやさしい顔で笑った。
それでも彼のサディズムは隠しきれない。
“時間をかけること”――― その労力を彼は惜しまない。
じわじわと、…真綿で首を締められるような苦しさが…私は好きだった。
こんなにも恥ずかしい格好をしている私に、孝則の視線が絡みつく。
見られている…
恥ずかしい……
それが、とても嬉しかった…。
そして…とても感じてしまう…。
(あぁ…気持ちいい……)
孝則は少しずつ、ローターの振動を上げていく。
たっぷり時間をかけて……
私はすぐにでも達しそうな状態なのに、なかなかその出口が見つけられない。
「あぁ……あぁ…うっ…」
肉芽をこうされるのは好きだ。
私の体は更なる振動を求める。
自然に腰が動いてしまう。
両足が固定されているけれど、腰を浮かせることはできた。
あそこが痺れてくる。
テープでそこに貼られたローターから与えられる緩い振動……その機械的で小刻みな動き…
気持ちがいいのに、…足りなすぎる…。
「冬子さん、もっと……?」
私は頷いた。
「冬子さん、ドロドロですよ」
そう言って彼はテープの上から指でぐっと、私の体にローターを押し付けた。
「あぁっ!」
私は大きく体が振れる。
「相変わらず、敏感な体ですね…」
そう言って彼はすぐに指を離してしまう。
そして別の玩具を取り出した。
孝則は別のローターを私の乳首に付けると、またテープで固定した。
もう一方の乳房も。
「う、あぁぁんっ……あぁぁ……」
乳首を潰しているローターのスイッチが上がる。
クリトリスに当てられているものよりも、ずっと強い振動が起こる。
両方の乳房までブルブルと小刻みに動いてしまう。
私はぞくぞくして、腰まで震えてしまう。
(そこ……、私のもっと欲しいのは別の部分なのに……)
乳首ではイけない。
体に起こる快感がいたづらに増すだけで、焦れるばかりだった。
「孝則さんっ……、あ、……お願い…」
変になりそうだった。
それなのに、彼は私の携帯電話を手にした。
「あっ……」
孝則は携帯を開いた。
フラッシュが光り、シャッター音が部屋に響いた。
「や、やめて…」
唯一動く頭…、私は首を激しく振った。
「素敵な格好ですよ、冬子さん。記念に残さないと勿体無いですよ」
赤いテープで足首を固定され、私はカメラに向かって足を開いていた。
その部分にも赤いテープが貼られ、両乳首にも玩具が固定されている。
「いや、……いや……」
私は孝則を見た。
その瞬間、シャッターを切られる。
「…やめて、孝則さん……、写真だけは……」
私は泣きそうになる。
「冬子さんの携帯ですよ」
孝則は私に近付き、そして私の顔に携帯を向けた。
「この写真をどうしようと、冬子さんの自由です」
そう言って笑うと、またシャッターを切った。
「最近の携帯は、綺麗に撮影できますね」
そして私の股間の近くでフラッシュが光る。
撮られている。
「……いやぁ…」
私は孝則の視線から逃れたかった。
動けないというのに。
彼は携帯を持ったまま、私の足の間、ソファーの座面に置かれた私のそこから繋がっているローターのスイッチを掴んだ。
「あああああーーーっ!」
突然全てのスイッチが最強に上げられる。
そのとき、私の体は跳ねた、と思う。
その部分の振動が下半身全部に伝わり、乳首からの刺激とシンクロする。
体中が機械的な動きで責められる。
「あっ、あ、あ……、あぁっ!」
「冬子さん、約束は守ってくださいね」
孝則が言った。
――― 約束……それは、達するときにそれを口にすること。
「あ、ダメっ、いくっ…、いくっ……んあぁあぁっ!!」
シャッターの音がした。何度も。
私は目を閉じて、屈辱的な格好のまま達した。
彼に指一本も触れられずに。
「はあ…はあ…あ、あぁあ…」
孝則はすぐにはスイッチを切ってくれなかった。
「お願い…、もう、…ダメ…切ってください……」
足を広げたままの体がビクビクと跳ねた。
電気を通された人は、こんな風なのかもしれないと思う。
達した後でも変わらずに与えられる強い振動に、体は耐えられなかった。
“感じる”とは違う感覚……苦しかった。
私の体のあちこちから、人工的な音が響く。
手足が動かないので、腰だけがビクビク動いてしまう。
恥ずかしいのに、止められなかった。
「もう……もう、…く、苦しい……」
クリトリスを中心として、私のその部分は強制的に震えていた。
このまま続けられたら……きっと痛みに変わってしまう。
孝則は、私の足元に跪(ひざまず)いた。
私の股間に置かれたスイッチから手にとり、そして全てのスイッチを緩める。
「はぁ……」
私は体中に入っていた力が抜ける。
それでも全てのスイッチは入ったままで、また微弱な振動が与えられる。
これに私が弱いことを、勿論孝則は知っていた。しばらくすると、官能が吹き返すことも。
「はぁ、…あぁ……」
休息が与えられ、そして孝則の目論見どおりに、私に快感が甦ってくる。
「あ、…はぁ…んっ…」
孝則はそれを見逃さなかった。
「んんんっ……」
指が入ってくる。
今度は先ほどとは違う。
明らかに私に性感を起こすために、彼の指が私の体内で擦れる。
「ローターの振動が、こうすると分かりますね」
孝則は私の中で指を曲げ、前方にあるローターの動きを感じているようだった。
「あぁ…あ、…あっ……」
中と外から挟まれて、私は益々感じてしまう。
「いいんですよね?これ?」
孝則が私の足の間から、私を見上げる。
クイクイと、体内で指が動くのを感じる。
ローターが当てられ続けたクリトリスが、壊れてしまいそうに、いい。
そして孝則の指も……私を蕩かせていく。
「…んっ…いい、です……すごく…」
目を閉じて、私は素直に口にした。
カチャッ
金属音に目を開けると、孝則は自分の携帯を手にしていた。
片手で電話をかけている。
(な、…なに…?)
「あ、誠一?」
孝則は私を見上げた。
「うっ…!」
孝則の指が、急に速さを増して動き出す。
緩いローターの音と、私から出るクチャクチャという音が……
(誠一…?…誠一に電話してるの…?)
「あぁうっ……」
私は唇を噛んだ。
声が、…漏れてしまう。
「誠一に相談したいことがあってさ」
私の恋人の誠一と……話している。
そこまでする孝則の行動が信じられなかった。
孝則は話しながら、涼しげに私の顔を見る。
彼の指の動きは一向に緩まない。
それどころか、私の感じる部分を的確に刺激してくる。
(ダメ……やめて…)
私は目で孝則に訴えるが、勿論彼はそんな私の反応を期待してこんなことをしているのだ。
「誠一が紹介してくれたディーラーなんだけど」
(あぁっ、…あぁ…)
「ん……、んんっ…」
孝則は誠一と話している。
逃げ出したかった。
それなのに私は孝則の前で足を広げ、クリトリスに玩具の振動を受けながら、彼の指で中をグチャグチャにされている。
不自由な体をひねると、乳房が揺れてそこにも玩具が貼り付いているのをまた自覚した。
(いや……だめ…)
「うっ……、ふぅんっ…」
ヴーンという3本のローターの音と、私のそこを孝則に弄ばれる音が響く。
(ああんっ……ダメ、声が……)
私を真っ直ぐに見つめながら、孝則はその指を更に動かす。
「くうっ……うぅんっ…」
尋常じゃない気配を、誠一は察さないだろうか。
まさか親友の受話器の向こうで、自分の恋人がこんなあられもない姿を晒しているなんて、彼は考えもしないだろう。
(ダメ、…誠一に聞こえちゃう……)
「くぅぅぅっ……」
私は更に唇を噛み締めた。
手で口を塞ぎたくても、ソファーの後ろで縛られているのでどうしようもなかった。
逃れたいのに、私は孝則の指が入ったそこを自らも動かしてしまう。
そして感じていた。
どうしようもないぐらいに。
孝則は話しながら、私を見ている。
その目………孝則の目から、私に向けられた動物的な欲望を感じる。
それは私を益々興奮させた。
ローターの刺激と、指の動きで、私はもう限界に達しそうになっていた。
ぐちゅっ、くちゅくちゅくちゅっ……
「ん……あぁっ!」
少し声を上げてしまう。
それがとてつもなく大きかったような気がして、私は一瞬青ざめてしまった。
「くぅ、…あ……」
それも一瞬のことで、すぐに快感という現実が私の体を襲う。
「……また夜電話する。じゃあ、…誠一」
“誠一”という名前に力を入れて、孝則は電話を切った。
私はほっとして、力んでいた体の力が少し抜ける。
「誠一が、いるのに……」
そう言って、孝則はしっかりと私に体を向けた。
指が更に奥へと入り込む。
「あぁぁんっ!」
声を出してはいけないという縛りから開放されて、私は思わず叫んでしまう。
「気持ち、いいんですか…?」
ゆっくりと孝則は私から指を引き抜く。
「…はい……」
私は彼を見ずに、小さく言った。
再び孝則の指が入ってくる。
入れる指の本数を増やして。
「あ、…あぁん…」
グチャグチャと、私のそこから音が聞こえる。
「う、…うぅ、…あぁぁんっ…」
動けない私は、ただ足を開いて孝則が動かす指からの刺激を受け入れるしかなかった。
そしてそれは…
「感じますか?」
冷たく、それでいて抑揚のある声で孝則は囁く。
さっきからもう麻痺してしまいそうなローターの振動と、指から与えられる中からの官能で、私はどうにかなってしまいそうだった。体中が性感帯になってしまった気がした。
「んっ…、あぁっ…、…か、感じますっ…」
私は孝則を見た。
彼は一重の目の端でうっすらと微笑んでいた。
「悪い人だ、冬子さんは……」
(孝則さんだって……)
私はそう思ったが、それを口には出さなかった。
私の口から出ているのは、ただひたすらに喘ぐ声、だけだった。 |