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9.透 |
「実習始まるから、……しばらくは友達のところに泊り込ませてもらう」 「ああ…そう?お父様も来月まで戻って来ないし…寂しいわね」 本当に寂しいと思っているのかどうかは分からないけれど、母親は一瞬物憂げな表情を見せた。 外泊に関しては甘かった。 これまでそうできなかったのは、外泊先が無かったからだ。 女友達とは表面的な付き合いしかしていなかったし、男性とは長続きしなかった。 「夜には一度連絡入れなさいよ」 母は派手なネイルが施された自分の指先を見ながら、たいして興味も無さそうに言う。 「…分かってる」 私はしぶしぶ頷いた。 仕事で多忙なせいで、家で父と顔を合わせることは実際のところ少なかった。 それでも私はこの家が嫌で仕方が無かった。 私をレイプした義父。 それを黙認していた母。 しかし表面的には家族を繕う。 輸入ブランド家具で統一されたリビング。 この家に住んでから母が買い揃えたものだ。 物資に恵まれたこの家は、逆に言うとそれしかない贅沢なただの箱だ。 『家庭』ではなかった。 吹き抜けの階段を上り、私は自分の部屋に戻る。 今夜も、義父は帰ってこない。 今となっては、もう義父がこの部屋で私を犯す事はなかった。 それでもこのベッドで眠ると、私は悪夢に苛まれた。 苦しくなった時、無意識に私は彼を思いだしていた。 あの温かさは、今まで触れたどんなぬくもりとも違っていた。 それから週末まで、私は自分の家には戻らなかった。 実習が始まってしまったので透と私はすれ違いだったけれど、夜には一緒に眠ることができた。 「ああ……疲れた」 部屋に戻ってくるなり、透はソファーに倒れこんだ。 「いくら打ち上げったって実習の後あんなに飲むなんて、浪岡って狂ってる」 私は彼の部屋の合鍵を持っていたので、彼よりも先にこの部屋に来ていた。 「紗羽の方は、どうだった…?」 「今日はエコーの実習だったから…あんまり疲れなかったよ」 「そっか……あ、オレにもコーヒー入れて」 「うん」 私は透のカップを用意する。 ここに来るようになって、私が自由に使えるものも増えてきた。 「はい」 「ありがと」 透は体を起こしてカップを受け取った。 「はー、なんか紗羽がいるとほっとする」 「そ、そう…?」 「うん…紗羽には、余計な気を使わなくて済んでる」 「…………」 余計な気…といえば、私も彼にはあんまり気を使っていないと思った。 「あー……マジで疲れた…」 透は珍しくグッタリしている。 いつもの彼なら小さな緊張感をいつも身に纏っているような感じなのに、今はそれが感じられなかった。 「シャワー浴びて、もう寝たら?」 私は言った。 「うん……そうしようかな」 カップのコーヒーを一気に飲むと、透はバスルームへ去っていった。 透の後に、私もシャワーを浴びた。 こうして当たり前のようにこの部屋でする一連の行動にも、慣れてきている。 ―― 彼に気を許していた。 合鍵でここに普通に出入りし、生活に足りない物があれば買い足して帰ってくる。 (…………) 髪を流しながら向かう視線の先には、私が使うためのシャンプーや他のものがあった。 自宅で何かに怯えながら、いつも警戒していたあの状況と比べるとはるかに楽だった。 そしてその反面、ここを自分の居場所にしてしまいそうで怖い。 彼に依存しかけている自分がいる。 もしも…彼に完全に依存してしまったら… 考えるのをやめて私はバスルームを出た。 透が買ってくれた私専用のドライヤーを使いながら、鏡に映る自分を見る。 (今の事だって……先の事だって分からない…) 起こりもしていない事に漠然と恐れを感じ、それに怯えるなんて無意味だ。 それなのに、考えないようにしようと思うほど心の奥の影は増える。 リビングに戻るともう明かりは消えていて、ひと続きになっている寝室部分の電気が緩く点されていた。 既にベッドに入っている透の隣に入り、私も横になった。 「明日、髪切りに行こうかなと思って…」 透は自分の前髪を指先でつまんだ。 「結構伸びてないか?」 指先の髪は、透が言うほど長すぎるという印象はない。 「ちょっとだけ、伸びたと思うけど…」 「じゃあ、やっぱり切りに行こう…気になるとダメなんだよな。 気にならない時は、全然平気なんだけど」 彼は男にしてはかなり神経質な方だ。 そんな透と一緒にいて苦にならないのは、彼が他人へ自分のこだわりを強要しようとしないからだ。 「どうしようかな」 透の手が私の背中へと回る。 「切りに行くんじゃないの?」 私は透を見た。彼は笑顔を向けてくる。 「そうじゃなくてさ、」 彼の手が背中を撫でてから、私の髪を触った。 ベッドに入って、こうやってただ抱きしめられる瞬間が好き。 (“好き”……) 心の中で浮かべるだけで、ドキドキさせられる言葉。 透の唇が私のおでこにちょっと触れて、そしてすぐに離れていく。 「やっぱり、してから寝よう」 ニヤリとする彼。 私はあっという間に脱がされてしまう。 「口でして、紗羽」 こういった行為も透に促されるまま、今は行うようになっていた。 「体はこっちだよ」 「えっ……えっ…?」 透に腰を引っ張られ、彼の体の上に足を開いて乗せられる。 私の目の前には彼のものがあり、この体勢になると、彼の目の前には私の… 「やっ……は、恥ずかしい」 「なんで?…何度も見られてるのに?」 「で…でもっ…」 確かに何度も間近で見られている。 それでも彼の顔の上に自分がお尻を向けていると思うと、恥ずかしくてたまらなかった。 「あっ……」 私の両方の太ももに透の手が触れた。 「紗羽はオレの舐めて」 「…………」 言われるままに彼のものを口に入れた。 前に透に教えられたように、私はその行為に集中していく。 (あぁっ……) 透の指が、私のそこをひろげていく。 「んっ………ん…」 「紗羽、上手くなったね……紗羽のも濡れてきてる」 (あんっ) くちゅりと音を立てて、透の指が私の中へ入っていく。 「中はもっと濡れてる」 さらに奥へ入った指が、私の中で前後に動いた。 「くっ……うぐっ……」 透の指の動きに合わせて、私のそこからクチュクチュと音が出るのが聞こえた。 (ああ……あ…) 彼のモノを懸命にしゃぶる私の口元からも、恥ずかしい音が漏れてしまう。 「あっ……あぁっ……」 たまらなくなり、私は彼のものを口から出してしまう。 「紗羽も、ちゃんとオレのを咥えて」 「ううっ……んんん……」 歯を立ててしまわないように気を使いながら、私は彼を頬張った。 その間も、透の指の動きは止まることがなく、よりいっそう深く私を擦る。 (あ、…ああ……やあっ) 「はぁっ、ああんっ……ああっ……」 溢れ出る吐息に我慢ができずに、私はまた彼を離してしまう。 「しょうがないなあ…じゃあもうちょっと体起こして」 指を入れられたまま、私は手を伸ばし体を支え、上半身を少し起こした。 「ああっ……やあんっ……」 透の指がもっと奥へ入ってしまう。 自由になった彼の手が、巧みな動きで私を攻めてくる。 「うあ、あぁっ……」 「すっご……紗羽、すごいボタボタ出てくる」 まるで感嘆するような透の声に、私の羞恥心が更に煽られてしまう。 「あっ、やっ!………やぁんっ!」 イキそうになってくる。 小刻みに震えていた透の指の動きが、一瞬緩くなる。 こうなった私の反応を見ると、彼はいつも一旦力を抜くのだ。 「はあ……ああん……やああ……」 無意識に透の顔の上で腰を振ってしまう。 もう達するばかりの体が中途半端に焦らされ、ただその高みだけを願っていた。 「ああっ!」 唐突に指を引き抜かれ、まだ全身に残る強い快感への渇望が私を追い詰める。 崩れた体。 透にひっくり返され、足を広げられる。 「はああぁんっ……!!」 足を割って入ってくる透の感触に身体は悦び、思わず恥ずかしい声を出してしまう。 「紗羽……すごいな、この中」 確かめるようにゆっくりと動く透の腰。 「ああ……ああん……」 (気持ちいい………) 透とのセックスは本当に良かった。 こんなに気持ちいい快感の真っ只中にいるのに、最初に彼に迫られた時の自信たっぷりな様子を急に思い出した。 (本当だったのね……) だけどあの夜抱かれたとしても、こんな感覚は味わえなかっただろう。 こんなにいいのは……きっと、好きになったから… 彼の動きが激しくなっていく。 私は手を伸ばし、彼に抱きしめられるのを望む。 「透……ああ、……ああっ……」 「……紗羽…」 抱きしめられ、キスされた。 不自由な上半身とは対照的に、繋がり続けるそこは激しい動きを受け止める。 (ああ……もうっ……) 身体中の筋肉が溶けるように緩む。 それなのに体に入っている彼を確かめるように、ギュっと握り締めているのが分かる。 「ああ……、ああ……ああ……」 壊れて流れそうになる。 離れないように、流れないように…私は透に回した腕に力を入れた。 |
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