泳ぐ女 STORY Message LINK

キスが止まらない
 
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10.イントロ

『今度、エッチしてもいいよ』
ひよりからその台詞を聞いてから、もう何日経つんだよ。

それをひより本人に問いただしてみた事がある。
あいつの気が変わって、そんな事言ったっけみたいな返しをされたらどうしようと思いつつ、オレの期待感はそんな危惧よりもデカくなりすぎて、やっぱり聞いてしまった。
そんな単刀直入には言わなかったと思う。
要するに、いつヤらしてくれんのかって事を遠回しに聞いた。

「はあ?受験でしょ?あんた、その成績でよくそんな事言えるね」

そう言ったひよりの目は、完全にオレを見下していた。
そもそも、オレはそんな風に女子に邪見に扱われるのに慣れていない。
と言うか、オレに対してこんな扱いなのは、男女合わせてもマジでひよりぐらいだ。

学校で会っても、遠くにいる時はあいつはオレをシカトする。
絶対気付いているだろってタイミングでも、目が悪いからとか言い訳して、無視しやがる。
「あ~あ」
元カノと別れたのは、別にひよりのせいじゃない。
束縛するタイプの彼女との付き合い自体、そもそももう無理だったからだ。
しかし、ここまでオレに無関心な態度をとられるのも、いい加減だいぶムカついてくる。

すげームカついてるのに、学校で時々あいつからされるキスに、オレはメロメロになってた。
(あ~、シャキっとしろよ、オレ…)
このままでいいのか、オレ。


時折、勉強に関してひよりから罵声を浴びせられ、何だかんだ結構勉強してオレは受験を迎えた。
オレにとってのひよりは、完全に目の前の人参だった。


年が明け2月に入り、オレは結構な数の大学を受け、合格人数の多いそこそこの大学にギリギリで引っ掛かった。
とりあえず、浪人は免れた。
ひよりにボロカスに言われていなかったら、多分ダラダラしてしまってこんなに勉強しなかっただろうと思う。
そういう意味では、あいつに感謝だ。

勉強から解放され、もうオレの考える事はひとつだ。
大学生活を夢見るとか、そんな事じゃない。

「ひより」
オレはひよりのクラスまで行って、廊下からあいつを呼んだ。
近くにいた奴は、オレが『久米澤緋依』を呼び捨てにして呼んだ事に驚いて、オレを二度見してた。
「何よ。なんなの、何か用?」
ひよりは名前を呼ばれて、嫌そうな顔で出てきた。
背が小さいくせに、いちいち態度がデカい。

微妙に視線を感じて、オレたちは廊下の端に移動した。
「今日、お前んち行っていい?」
「え~?あんた、したいの?」
相変わらずストレートに言ってきやがる。
2人きりの時はすげーエロいくせに、嫌々相手にしてますオーラ全開にして、オレを睨んできた。
それにひるまず、あえてオレは欲望丸出しで答えてやる。
「いいじゃん、受験終わったんだしよ」
「………」
ひよりは否定する風でも無く、しばらく無言だった。
オレは返事を待つしかない。
耳の横の毛を後ろにまとめたひよりの髪型は変わっていなかったが、受験の間に結構伸びていた。
オレはじっとその毛先を見てた。

「でも、うちでは嫌だな」
「お前んちじゃなければいいの?」
「でも元春んちでも嫌よ。落ち着かないし」
「じゃあ……ホ、ホテルは?」
オレは期待し過ぎて、途中でのどを鳴らしてつばを飲んでしまった。
「ホテル、それいいわね。汚しちゃうかも知れないし。今週末午前授業の日があったわよね。その日は?」
「おお、じゃあ、その日で」
「場所は何となくネットで見ておくわ。じゃあね」
ひよりは珍しくニコっと笑って、スタスタと自分の教室へ戻って行ってしまった。

(やったぜ………)
ひよりの後ろ姿を見ながら、オレのそれはもう軽く固くなり始めていた。
(今週末か…)
週末が待ち遠しすぎて、学校なのに死にそうだ。

意識の端、ほんとに隅の方で、ひよりの言葉が引っ掛かる。
(汚しちゃうかも、って何だ……?)
「まあ、いいか…」
オレは一抹の不安を感じつつも、ひよりとやっとヤれるという事で完全に舞い上がった。

その日は、すぐだ。

 

   

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2017.12.13up 著作権は柚子熊にあります。
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