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心に薔薇の赤、両手に棘を
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8.バランス

冬休みが始まった。
泉は時々、クリスマスのことを思い出してしまう。
トオルと、アキラ…
特にアキラと過ごした一晩は、泉にとって忘れられないものになっていた。


「泉ちゃん、急だけど明日時間とれないかなあ」
トオルから泉の携帯に電話があった。
「明日なら、6時半くらいからなら大丈夫かな?」
「オッケーオッケー。じゃあ、迎えに行く。どのへんまで行ったらいい?」


車に乗るとき、トオルはいつもサングラスをしている。
眼鏡越しに目を細めて、トオルが言った。
「もう今年も終わるなあ」
「そうだね…」
振りかえると、奇妙なものだと泉は思う。
去年の今頃、自分がこんな風にしているなんて考えもしていなかった。
「さすがに道路、混んでるよな」
年末の街は落ちつかない雰囲気だ。
クリスマスはひと月以上楽しむのに、26日を境に大急ぎで新年を迎える準備へと装いを変える…。
街はいつでもそうだ。
毎年同じことの繰り返し…。

渋滞のせいでいつもよりも時間がかかり、トオルのマンションに着いた時は7時を回っていた。

「いつも可愛いよ…泉ちゃん…」
部屋に入ると、トオルはすぐに泉にキスしてきた。
「トオル…」
「クリスマスの時も、すごく良かったよ…」
トオルは手先が器用だ。
あっという間に泉は全裸にされてしまう。
暖房が行き渡るまでの間、布団をかぶってトオルは泉を愛撫する。
「あ…あん、はぁ…」
泉の性感もしだいに温もり始める。
トオルは泉の乳首を軽く噛みながら、下半身を指で丁寧に責めた。
泉はトオルの匂いを感じる。
香りに関しては、彼よりもアキラの方が甘い。
「うあ…あ…あぁ…あ…」
敏感なところを責められ、泉の声がひっきりなしにあがる。
「入れる前に、いかせてあげるよ…」
トオルが泉の耳元でささやいた。
泉の体はいつも彼の思うままに、コントロールされてしまう。


泉は肩で息をした。
今しがたのぼりつめた感覚がまだ体のあちこちに残っていた。
トオルは泉をうつ伏せにさせて彼女の腰を持ち上げた。
ドロドロした泉のそこが、トオルの前にさらけ出される。

トオルは何かの容器を手に取り、泉の上に液体を垂らした。

「あん…」
その感触の冷たさに、泉の体がピクンと震えた。

「今でも充分なんだけど…、念のためにもっとヌルヌルにしとくから」
トオルが泉の性器全体にそれを伸ばしていく。
「はあ…あん…」
彼は執拗に泉の肛門のまわりを撫でる。
トオルの指が、少しずつ泉のそこへ入っていく。

「や…あ…そんな…とこ…」

ローションで滑り易くなっているので、その穴でさえも泉は簡単に指を受け入れてしまう。
「大丈夫?…痛くないよね?」
「い、痛くはないけど……ああ、…変…ヘンな感じ…」
トオルは空いている手で、泉のクリトリスも同時に愛撫した。
「こうした方が、リラックスできるかもね」
「あ、ああ…、あん…はぅ…」
泉はシーツを握りしめる。
トオルの中指は全て、泉に入ってしまった。
「すごいな泉ちゃんは、……こっちの方も順調だ」
後ろに入れた指は動かさずに、再びクリトリスを愛撫する。
「やん…ああ…はあ、ああ…」
先刻達したばかりの泉は、すぐに反応してしまう。
泉が感じるたびに、後ろの穴に力が入る。
「こんな風にしたら、泉ちゃん、またすぐにイっちゃうんじゃないの?」
トオルがクリトリスを弄っている指の動きを速めた。
「はあ、あん、…や、…ああ…あん…」

(も…また、き、気持ちいい…、ダメ…)

彼の柔らかな指の腹で、クリトリスが左右に弾かれる。
ギュっと締まる後ろの穴で感じる異物感さえも性感へと変わっていた。
「ダメぇ…あ、あ、あ、あ、…イっ…ちゃ…」
泉が達する寸前に、トオルは後ろに入れていた指を引き抜いた。

「うあ!ああぁぁぁぁぁぁんっ!」

何かから解放されるような、経験した事のない感覚が泉の後ろの方で起こる。
泉は再び達してしまった。
さっきよりも強く。
「はあ、はあ…あぁ…あぁ…」

トオルがすぐにペニスを泉の膣に入れてくる。
「ああぁぁん!」
既にクリトリスで二度も達している肉体は、貪欲に快感を求めていた。
膣壁に擦れる彼の肉が、泉の体内を蕩けさせる。
それは全身に広がり、泉は指の先まで痺れてしまう。

「ああ、あっ、はっ、…うんっ…ああ…」

後ろから突き動かされ、泉の体は揺れる。
泉の背中を見下ろしながらその乱れていく様に、トオルは満足していた。
(ほんとうに、いやらしい子だなあ…)
打てば打つ程響く泉の感度の良さに感心しながら、彼女の中を容赦なく混ぜる。
自分の動きに期待以上の反応を見せる泉。
(可愛いなあ……ホント…)
「ああっ、ああ、…うあっ…」
自らも腰を揺らす泉は、今、セックスに夢中だ。

トオルは用意していた細長いアナル用のバイブレーターを取り出した。
腰を引いて、泉の後ろの穴に先端をあてる。
「こっちも入れるよ…」
トオルは自分のペニスを浅く挿入したまま、泉のアナルに一気にバイブを入れていった。
「は!やぁ!…あぁあん!」
ローションと愛液で充分に潤うそこは、細いバイブなど簡単に呑み込んでしまう。
(や…なに…これ…?)
異物感に泉は体を固くするが、戸惑いとは裏腹にその場所にはどんどん玩具が入っていく。
「うぅっ……」
(やだ……変な感じ……)
あっという間に、長いバイブの全てが泉に埋まってしまった。
泉の腰を引っ張り、トオルは改めて深く入っていく。
そして自らの腰を再び動かした。
「あん!あ、…はぁぁっんっ!…あぁ!」
トオルの肌が泉に打ち付けられる度に、ローションと愛液でその場所はヌチャヌチャと音をたてる。
(ああん…やだ…気持ちいぃ……)
後ろに挿入された何かの感じも、泉の性感を高める要因の一つになってしまう。

トオルはバイブレーターのスイッチをいれた。

「はぅっ!……やあっ、…やぁああ…」
ブルブルと、泉の後ろの穴が振動した。
玩具はしっかり刺さっているので、泉にとっては内臓に何かされているような感覚だった。
経験したことのない違和感。
「泉は感じ易いから、こっちもいいだろう?」
トオルは更に泉の腰を持ち上げて、自分のものを深く挿れていく。
「ああんっ!あん!…あ、ああん!」
泉がシーツを掴む。
(や…ダメ…ダメぇ…)
後ろの穴は膣よりも敏感なようで、どんな動きをしているのかがはっきりと分かる。
(ああ、…変……何……やあっ…)
苦しいほど、泉は感じていた。
トオルは容赦なく責めてくる。
玩具の動きが、更に強くなった。

「あん!あっ、あっ、…うあ、うあっ、うあっ…」

泉の内部が激しく波打つのが、トオルにも分かった。
(すげえ気持ちいい……最高…)
トオルはたまらず泉を正常位にして、思う存分彼女を突き動かした。
激しく動けば動くほど、泉の反応も同調していく。
泉の肉越しに、トオルのペニスにもバイブの動きが伝わっていた。
それがまたトオルを介して泉の膣内にも振動を与えた。

泉は感じたことのない激しい感覚に、気が変になりそうだった。
(やあ……何……変……だめぇ…)
機械的な振動が、泉の尻を揺らす。
その場所とほとんど変わらないところにあるもう一つの穴では、トオルのペニスが出たり入ったりしている。
下半身に伝わる苦しいほどの圧迫感。
そして味わった事のない悦び。
「あ…あ…あ…あぁ…」

トオルは別の玩具を手にして、泉のクリトリスに当てた。
「あっ!あっ!…あ…あ…あ…」
泉は二つの穴と肉芽を同時に刺激されて、下半身がおかしくなりそうだった。
三つの別の刺激が一つに纏まって体内で繰り返し弾ける。
既に自分がどこで感じているのか分からなくなっていた。
全てが絶頂へ向かい、泉の感覚が真っ白になっていく。
下半身が溶けて、全身がバラバラになりそうだった。
(ああ……だめ……だめ…だめ…)
以前バイブで責められ失神した時のような、危ない感じが体全体を襲う。
手足が小刻みに震えた。
開いた口元から涎が流れる。

「ふぁ…あぁ…あぁ…」

(イっちゃう……)
無重力だった。
ピークに達した感覚が唐突に途切れる。
しだいに意識が朦朧として、わけがわからなくなっていく。
泉は白目を剥くと、失禁しながら気を失った。


「あーあ…やっちゃったよ…」
トオルはそんな泉の姿を見て、思わず呟いた。
(ドラッグもしてないのにすごい感度だな…)
改めて泉の反応に感心した。
後ろの玩具を抜き、もう一つの玩具とともにベッド脇に置く。
そして泉を抱き上げてソファーに移動させ、ゆっくりと横にした。
汚れた彼女の下半身をキレイに拭いて、綿の白いバスローブを体の上に乗せる。
その上からきれいな毛布をすっぽりかけてやった。
顔を上げたトオルに、汚れたベッドが見える。
「めんどくせーなぁ…あーあ、ビショビショ」
泉が汚したシーツを新しいものに取り替える。
それが終わると、トオルはベッドの縁に腰掛けてタバコを吸った。
泉は疲れた様子でソファーで眠っている。
(……オレ、一度泉になってみたい…)
泉があんまり感じるので、トオルはそんな事を考えてしまう。
眠る彼女を、不思議と穏やかな気持ちでトオルは見守った。

――― 普段のトオルはあまり女が好きではなかった。
トオルにとっての女性は、その場の雰囲気を楽しみ 性欲を満たすものでしかなかった。
しかし何故だか泉と過ごすのは嫌ではない。
むしろ一緒にいると落ち着いた。
(不思議なもんだな…)
だが、恋愛感情とは違っていた。
「ふう……」
大きく息を吐くと、トオルはタバコの火を消した。

夜の11時を過ぎても眠る泉に、トオルは声を掛けた。
「泉、もう遅いよ。帰らないと」
「あ…?ん…」
泉はそっと目を開く。
「あたし…、え…」
トオルがニヤニヤして泉を見ている。
「えっと……また…、気を…失ったの…?」
「今日は、オマケつきだったけどね」
トオルが意地悪に笑う。
ガバっとソファーから起きて、泉は思わず自分の体を触った。
「あたし…今度は何したの…?ねえ……トオル…?」
黙ってニヤニヤしたまま、トオルは泉にキスしてそっと抱きしめる。
体を離すと泉はトオルを見上げて言った。
「何…?何したの…?あたし…ねえ…トオルってば…」
「んー?たいしたことじゃないよ、オシッコぐらい」
泉は耳まで真っ赤になってしまう。
(うそぉ…いやあ…)


自分の家に戻って、今日トオルの部屋で起こったことを考えていた。
(もう、私…戻れない…の…)
自分自身が既に肉欲の虜になっていることは、分かっていた。
しかしそうなればなる程、そんな自分を強く嫌悪するもう一人の自分もいた。
冷静になって、考える。

肛門にもバイブを入れて、失神し、失禁した…。

そんな事を自分がしてしまったとは、考えたくなかった。
(確かに、その時 体は気持ちいい……けど…でも…)
先程入浴したとき、少し後ろが痛かった。
きっと排便をするときは、もっともっと痛いんだろう。
(これは、罰だ…)
トオルと普通に交際していてその延長上のプレイというのならば、ここまでの罪悪感に苛まれなかったかもしれない。
性癖が特殊なカップルと思う程で済んだのだろう。
しかし自分は二人の男性と、肉体だけの関係を結んでいる…。
それもそれぞれとではなく、普段は3人でセックスしているのだ。
トオルもアキラも普段は優しい。
だから異常な関係であるという事実を、泉は時折忘れてしまう。
無意識に考えないようにしている、というのもあった。

次第にエスカレートしていくセックスに、恐怖心を感じていた。
肉体が暴走し意識まで失ってしまう。
そして彼らの望むどんな行為でも、悦んで受け入れてしまうような気がした。
理性の歯止めがきかなかった。
自分がこの先どうなるか考えると、怖くなってくる。
(私、どうしたら、いいの…?)

怖い、それなのに、…トオルともアキラとも別れたくなかった。
肉体だけの欲求だけではなく、今では精神的にも彼らに依存していた。
二人を求めるという、屈折した恋愛感情が自分の中で生まれていた。

これから先、自分自身がバランスを保っていけるのか。
泉は不安だった。

 

   

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