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言いなり学園
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6.夏

謙介の他に誰もいない左近の家で、その日、楓香は全裸にされ、彼のベッドの上で長い時間体中を弄られた。
彼の前で裸になるのはとても珍しい事で、楓香はそれだけで普段よりもずっと興奮してしまった。
繰り返し何度もイカされ、意識が朦朧としながらも謙介の精液を何度も飲み、落ちるように眠りについて、目覚めるともう日は落ちていた。
謙介は楓香の手を取り、その夜は特別に彼女の家まで送って行った。


楓香は自分のベッドに目を閉じて横たわると、その晩はもうそのまま動けなかった。
最後の方は、何をされているのかさえ分からなくなっていた。
謙介の指が、自分の体内の感じる部分のあちこちを探った。
彼はいつも指を1本しか入れない。
それでも楓香の感じるところを的確に探し当て、確実に登らせていく。
(すごい汚しちゃった…)
謙介はベッドを汚さないように、途中からタオルを敷いていた。
それは薄っすらと覚えている。

興味本位で、昔、謙介に潮を吹かされた事がある。
その行為自体はそんなに良くもなく、痛くなりそうだし汚すしという事で、お互いに再びそれをする事も無かった。
自分の意志とは関係の無いタイミングで、辺りをビチャビチャにしてしまうあの行為。
今日そうなりそうになって、『それは嫌』と楓香は泣いた。
謙介は手を止め、楓香にそうさせる事はしなかった。
それなのに、イき過ぎて結局は自分から大量に溢れたもので、まわりを沢山濡らしてしまった。

(私、これでも処女なんだよね…)
何度もオーガズムを経験し、男性をイかせる事もできる。
しかし、楓香は男性を受け入れた事が無い。
(ケンちゃんも童貞って事なのかな…)
謙介もそうだ。彼自身を、女性に繋げた事は無いのだ。

(こんな事までしてるのに、処女を守る意味なんてあるのかな)
小学生の時、お互いの好奇心から体を触り合い、反応を見て楽しんだ事から始まっているこの関係。
今から思えばその頃の行為はあまりにも無邪気で、現在こんなにエスカレートして、そして続けているなんて、楓香はやはり罪悪感を感じてしまう。
(普通の恋人同士だったらいいのに)
性的な欲求を満足させるためだとしても、度を超しているような気がしていた。
(気持ちが良すぎて、ダメになりそう…)
どうやって動かしているのか分からないぐらい、謙介の動きは巧みだった。
(ケンちゃんが、怖いよ…)
泥のように重い体をベッドに沈めながら、楓香の体内ではまだ謙介に弄られた性感があちこちに残っていた。



謙介が長野に行ってしまい、楓香は友人たちと高校最後の夏休みを過ごした。
「やっぱり海はいいよね!夏だよね!」
夏と水着が似合う陽菜は、開放的なビキニを着ている。
一方、黒髪の愛美はクールビューティーという感じで、日焼け止めを先程から何度も塗り直していた。
「おー、3人とも可愛い!!」
海の家に場所を取り、着替えた男子たちが楓香たちへ近づいてくる。
「ちょっと、愛美と楓香の事ジロジロ見たらダメだからね!」
陽菜がふくれて、勇人を見る。

今日は楓香たち3人女子と、陽菜の彼氏、勇人を含めた3人男子の6人で海へ来た。
先日、楓香たちだけで海へ来た時には1日中ナンパにあって、全く楽しめなかったからだ。

6人でビーチに出ると、辺りの注目が集まる。
楓香をはじめ、女子たちの可愛さもあったが、陽菜の彼氏はスポーツクラスで水球をしており、一緒に来た男子はその仲間だった。
「ちょっと、あの子たちの体…すごいね」
女子の視線が、男子たちの逆三角形の肉体に集まっている。
「勇人たち連れて来て良かったでしょ?」
陽菜がいたずらっ子のように笑う。
「ホント、すごい効果だね」
楓香も感心した。
外見に関しては、男の子よりも女の子の反応の方が露骨だなと楓香はいつも思う。そのぐらい、ビーチで彼らは女子から遠慮なく見られていた。

目立ち過ぎる彼らは、誰からも声をかけられる事なく、極めて平穏にその日を楽しんだ。


帰りには海の見えるレストランを勇人が予約してくれていた。
「あー、今日はマジで楽しかった。オレたち、いい感じじゃない?」
勇人の友人の大貴が言う。彼は趣味でサーフィンもやっていて、髪の色はかなり茶髪だ。
もう1人の友人、亮一も勇人たちと同じ、虹組で水球をしている。
彼は他の2人と比べると、物静かだ。
「結構オレらも逆ナンとかウザイ時あるし、またみんなで遊ぼうよ」
勇人がニコニコして、楓香と愛美を見る。
愛想の良い感じが、陽菜とお似合いだった。
「めぐみちゃんは彼氏いるんだよねー?」
「いるよー、1コ上。今うちの理工学部にいるよ。って、大貴くんもいるんでしょ、年上の彼女」
「よく知ってるじゃん。女子大生なんだよ。うちの大学じゃないけど」
サーフショップでバイトもしている大貴は人当りも良い。
大人しい亮一も、彼女は いるようだ。
この中で恋人がいないのは、楓香だけだった。

「でも信じられないなあ、楓香ちゃん超可愛いのに、彼氏いないなんて」
勇人のひと言で、楓香に注目が集まる。
「楓香はさ、蒼組キープしてるぐらい勉強してるから、そんな暇ないんだよね。でも、すっごーいモテてるから、その気になればすぐだよね」
陽菜は半分本音で、楓香を羨ましく思っていた。
「この前、瑠璃組の田端、玉砕してたもんなー。あいつ、男から見てもスゲーいい男なのに!」
大貴の言葉に、楓香は愛想笑いを返す。

「楓香ちゃんって、どんな男がタイプなの?」
静かに亮一が言った。
「おお、それ聞いてみたい!」
「そう言えば、楓香から聞いた事ないよね」
みんなの注目が楓香に集まる。
「タイプ……」
楓香は困ってしまう。
「うーん……」
しばらく考え込む。
その間も、皆は静かに楓香の言葉を待っていた。

「私、好きな人がいるんだ」

「!」
誰も予想していなかった楓香のひと言に、全員が一瞬固まる。
「ええー!初耳!!!!」
愛美と陽菜が声を揃えて驚く。
「なんで?なんで?なんで付き合ってないの??楓香ちゃんなのに?」
男子たちもあまりの驚きで、若干引いている。

「多分、片想いだから……。もう長いこと」
本音を言葉にしてホっとしたのと、言葉にして実感したのとで、楓香はため息をついた。

楓香のその表情を見て、微妙な空気がその場を覆う。
(ちょっと、これは重い話なのでは…)
(聞いてはいけない事なのかも…)
(もしかして触れてはいけない事を聞いちゃったのか…?)
「でも、楓香ちゃんなら絶対幸せになれるって!オレが保証する!」
勇人が声を荒げて、なぜか挙手して立ち上がる。
「あなたが保証するのは、陽菜の幸せでしょーよ」
愛美の冷静な突っ込みに、皆が笑う。
自然な流れで、会話は移って行った。


帰り道、亮一は楓香を送って行った。
(この子が片想いしてるなんて、意外過ぎる…)
派手な雰囲気で、告白してくる男子を振りまくっている有名過ぎる女子。
(人は見かけによらないもんだな…)
亮一は横で歩く楓香を観察した。
フワっとした美しい髪に、きれいな肌。
亮一の視線、斜め上から見る楓香の睫毛はマスカラもしていないのにビッシリと濃く、長い。
(人形みたいな子だな)
亮一たちのように、スポーツクラスにいるメンバーは、あまり学力テストの結果を気にかけていなかった。
それでも蒼組をキープし続けているという凄さは理解できる。
(きっと、努力家なんだろうな)
外見だけでは分からない楓香の様々な面を想像して、亮一は彼女に興味が湧いてくる。
「ありがとう、ここなの」
楓香の家の作りはモダンで、そのまま住宅のCMに出てきそうな佇まいだ。
「今日、楽しかったな。またみんなで遊ぼうぜ。みんなで一緒にいると気が楽だしな」
「うん。そうだね。ホント、今日はありがとう」
楓香は愛らしい笑顔を見せ、育ちの良さが分かる仕草で頭を下げた。
「おやすみ」
「おやすみなさい」
家に入っていく楓香を見送り、亮一は思った。
(どんな男なんだろうな……、あの子が好きな奴って)
あの愛くるしい少女を好きにならない男がいる、という事が不思議でならなかった。


その夏の楓香は、ずいぶん遊んだ。
勇人たち、6人で出掛ける事も多かった。
それに、亮一や大貴の彼女が合流する事もあった。
楓香以外全員恋人がいるというのは、楓香にとっても、楽な事だった。
分かり易い人間関係の中にいるのは、心地が良い事だと実感した。

(だけど、いいなあ…カップルって)
もし楓香の容姿が違っていたなら、1人だけ恋人がいない状況というのはもしかしたらとてもみじめな事だったのかも知れない。
誰からも羨ましがられるような風貌のおかげで、楓香はそれを感じずに済んだ。
それでも、楓香から見ればみんなの事が羨ましくてたまらなかった。

(ケンちゃん、今頃何してるかな…)

お盆を過ぎていた。
様々なイベントがあちことで行われ、週末の夜はどこかしらで花火の音がした。
1カ月以上顔が見れない事が、寂しくて仕方がなかった。
(会いたいな…ケンちゃん)
メールをしようかとも思ったが、何を書いていいのか分からなかった。
普段大した雑談もしないのに、あらためて文章にできる事もなかった。
(あんな風に、みんなみたいに普通にイチャイチャしたりおしゃべりしたりできるのって、すごいなあ…)
小さい頃は、謙介と楓香は仲良く遊んでいた。
小学校高学年ぐらいまで、そんな感じだったと思う。
やはりお互いの性を意識した、あの時から2人は変わってしまった。

(ケンちゃんに触られるのは好きだけど…)
楓香は携帯を握りしめる。
(もっと他の事もしたいよ…)
勉強は進んで教えてくれる。それに関わる事なら、積極的に取り組んでくれる。それは昔からそうだ。
(2人で、ちょっと出掛けるだけでもいいのになあ…)
考えると、また涙が出てしまう。
涙が出ると、頬に謙介の舌の感触を思い出して、余計に泣けてきてしまう。

ダメだと思いながらも、楓香は謙介の番号を携帯で開いてしまう。
(ちょっと、コールして…)
謙介が携帯電話にすぐ出る事はまず無い。
何か用事がある時も、ほとんどの場合、一旦かけた後に謙介の方からかかってくる。
迷う間も無く衝動的に、楓香は通話ボタンを押してしまう。

しばらく無音、そして遠い呼び出し音。
(電波が届かないのかも…)
3回呼び出し音を聞いて、切ろうとしたその時だった。

『楓香?』

久しぶりの、謙介の声。
それだけで楓香の心が飛び出そうに跳ねる。
「あっ、…ケンちゃん?」
『ちょっとそのまま待って…』
後ろから大きな雑音が聞こえる。
謙介の声が聞き取れない。
ドキドキしたまま、楓香は携帯を握りしめて待つ。

『もしもし?』
「あっ、えっと…今、だ、大丈夫?」
『ああ。丁度抜けたかったから、電話のタイミング良かった』
さっきよりも謙介の声がクリアに聞こえる。
静かな部屋に移ったようだ。
衝動的に電話をしてしまったが、謙介の迷惑にならずに済んで楓香は少しホっとする。
「何、…してたの?」
『両親の来客に付き合わされてた…ここ何日かこんな感じで』
謙介にしては珍しく疲れた声で、そんな様子の彼に楓香はキュンとなる。
「何だか大変そうだね…」
『もうそっちに帰ろうかな、オレ1人で』
ため息混じりの本音。
「…えっ」

『オレが帰ったらどうする?しばらく2人で過ごすか』

(2人で…過ごす……?)
「…………」
謙介らしくない言葉に、楓香の思考がついていかない。
ただ体だけが反応して、携帯を当てている耳から動悸が彼へ聞こえてしまいそうな気がした。
『お前。何、真に受けてるんだよ』
「あっ…」
いつも通りの冷静な謙介の声に、楓香は我に返る。
『でも疲れるし、帰るかも…。それは冗談じゃなくて。あ、悪い、ちょっと切る』

そこで唐突に謙介に切られた。
(何…?言いたい事だけ言われて、切られたんですけど…)
彼とはもう繋がっていない携帯を、楓香はしばらくじっと見ていた。
(私、完全にからかわれてるなあ…)
勉強机に引いてある充電器に携帯を繋いで、楓香はイスに座る。
(ケンちゃんは、絶対私の気持ちを知ってる)
楓香が好意を持っているのを分かっている上で、謙介がああいう言動をしているという事ぐらい、楓香自身も以前から気づいていた。
机の上には夏休みに入った時に謙介から勧められた参考書が、何冊かまとめておいてあった。
友達と会っている時以外の1人の時間を持て余していた楓香は、その全てを既に終わらせていた。
学力で謙介と離れない事で、少しでも彼に近づければ良いと思っていた。

(ケンちゃんが私と2人で過ごしてくれるわけなんてないのに)
例え彼に呼ばれたとしても、2人きりならば尚更、ただ謙介の性欲を解放する道具になるだけだ。
その代わりのように、謙介からも楓香へ快楽を与えられる。
それも執拗に、深く。
(他の誰かにされたい訳じゃない…)
楓香は携帯電話をじっと見つめた。

「ただ、ケンちゃんと一緒にいたいだけなのに…」

目を閉じて、先刻聞いた謙介の声を思い出す。
(ただ普通に会えればいいだけなのに…)
性的な快楽を求めているわけじゃない。
彼から例えそれを与えられたとしても、体が繋がるわけでもない。
「私とケンちゃんの間には、何もないんだ…」
本当は体の繋がりも、ましてや心の繋がりも無い、何も無い関係。
(泣きたくないのに…)
触れる事のできる相手なのに、自分の心さえ許されない。
それが辛すぎて、楓香はいっそ謙介と会うのをやめてしまおうかと思う時もある。
しかしそれもできなかった。
彼の側にいたいが為に、自分の気持ちを抑える。

「会いたい…」

楓香の頭に浮かぶ謙介は、意地悪だったり嫌な事を言ってきたり、そんな姿がほどんどだ。
それでも時折楓香に見せる彼の柔らかい視線や、自分に触れる優しい手が忘れられない。

楓香の中に、何年もかけて彼の存在が染みていた。
それは幾重にも重ねられた薄い傷のように、楓香を苦しめた。


 

   

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