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言いなり学園
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4.背徳

謙介が中学受験の勉強を始めた時期、楓香もそれに倣うように受験を決めた。
元々仲の良かった2人は一緒に塾へ通い、以前よりも頻繁に楓香と謙介は行動をともにするようになった。
小学校6年へ上がる春休みに、謙介の両親は親戚の集まりがあり遠方へ泊りに行った事がある。
春期講習に行っていた謙介は自宅に残り、その時に緑川が呼ばれた。

「楓香ちゃんもお勉強大変ね」
左近家にいても何の違和感もない楓香に、緑川は声をかける。
「でもケンちゃんがいるから楽しいです」
少しはにかみながら答える楓香は、小学生ながらも既に女の子らしくて、とても愛らしい。
緑川はいつも礼儀正しいこの少女に好感を持っていた。
最近少し反抗的になってきた謙介に、こんな可愛らしい友達がいてくれる事に安心すらしていた。

『用事があったら下に行くから、勉強の邪魔はしないで』と、常に謙介は緑川に言っていた。
それは楓香が来た時に限らず、家庭教師が来ている時でも、自分1人で勉強をしている時でも、集中している時間を中断される事を謙介は極度に嫌がる。
謙介ほど抜きん出て優秀な子どもには、やはり特別なところがあるのだろうと、それはそれで緑川も納得していた。

楓香が来ていた事もあって、何の考えもなくお茶とお菓子を持って緑川は謙介の部屋へ向った。
階段から廊下に出て、ふとした違和感を感じる。
感覚的なものだった。
小さな声がする。
苦しそうな少女の声。

緑川は謙介の部屋のドアに近づいた。
注意しないと聞き逃してしまうような、小さなうめき声。
緑川はさらにドアに近付く。
『あぁっ…、んんっ……』
振り絞るようなそれは、子どもの声でありながら明らかに…。
『ここ?………楓香は、ここが気持ちいいの?』
聞いた事のない、興奮した謙介の声。
『うんっ……、いいっ…、あぁっ…』
少女の声、息が上がっている。
性的な行為をしているのは明白だった。

緑川は、頭が真っ白になった。
固まった数秒。すぐに我に返り、その場を離れた。
知ってはいけない事を、知ってしまった。
(奥様には、言えない…)
まずそう思った。
近頃無愛想になった謙介、つい先程笑顔で挨拶をした愛らしい楓香。
(2人がそういう関係だったなんて…)
ショックだった。
キッチンへ戻った緑川の手が、動揺で震える。
(まだ、小学生なのに…)
謙介と楓香が幼稚園の頃から、緑川は知っている。
まるで近親相姦を見てしまったような背徳感。
(一体、いつから…)
謙介に説教など、できるわけがない。
頭の良い彼の事だ。
その行為が望ましくない事だと言うのは、十分分かっているはずだった。
黙ったまま、見なかった事にしようと緑川は心に決めた。


そして現在。

蒼組に居場所がない楓香は、友人がいる紅組でほとんどの時間を過ごしていた。
久しぶりに学食で食事を取って、教室に戻る時だ。
「笹原さん」
見慣れない男子生徒に声をかけられた。
背が高くて、体が大きい。
爽やかという言葉がぴったりハマる、珍しいタイプ。
「…えーっと、誰?…でも、見た事ある」
「オレの事、知らない?水泳やってて…」
「ああ…」
高校生スイマーとしてテレビの取材を受けたらしく、先日紅組の女子が彼の噂をしていた。
「オレ、瑠璃組の田端」
「そうなんだ。何か用?」
「オレ、笹原さんの事、気になってて」
「えっ…?」
楓香はあからさまに嫌な顔をした。
廊下の途中でそんな話をするから、通る生徒たちがジロジロ彼らを見る。
普通に歩いているだけでも、田端は今、注目を集めているというのに。
「私あなたの事知らないし」
「笹原さんって、すごい可愛いのに頭も良くて、オレ憧れてて」
全国で注目されている水泳界のホープに、『憧れ』と言われて、楓香は思わず苦笑してしまう。
「田端君こそ、みんなに憧れられてるんじゃないの」
「さ、笹原さん…。オレの事知って欲しいし、とりあえずメアド交換してくれないかな」
こんなところで堂々と告白まがいの事を言って来る神経の太さに、楓香はまず驚いた。
(悪い人では無さそう…)
どちらかと言うと純朴な感じの田端に、意外にも楓香の印象は悪くなかった。
「田端君って目立つ人だし、今すごく忙しそうだし。私も忙しいし…」
「目立ってるって、オレよりも笹原さんの方がずっと目立って…」
そう言う田端の言葉を、楓香は遮る。
「なかなか時間も無いと思うよ。水泳頑張ってね。応援してるから」
とびきりの笑顔を向けると、楓香はその場を急ぎ足で去った。
取り残された田端を、その場にいる全員が注目していた。

『昼休み、あの田端をバッサリ振ったらしいぜ…笹原』
噂はすぐに蒼組まで伝わってきた。
(うるさいなあ、もう…聞こえてるってば)
横の席の男子が、楓香をチラチラ見ながら話していた。

「笹原に告る田端もすげーけど」
「廊下で告ったんだってさ。やっぱ脳筋は違うよな」
今度は田端をバカにしている。
蒼組の生徒たちは、他のクラスの生徒を極端に見下す傾向にあった。
特に常に蒼組に在籍している子達に、その傾向が顕著だった。
「蒼常連の笹原が、あんな奴相手にするわけないよな」
「オレたちだって笹原に声かけられないのに。今注目されてるからって、身の程知らずだよな」
男子たちの小声の会話でも、楓香にまる聞こえだった。
楓香は立ち上がって、その男子達の席へ行く。

「何?私の噂?」
「えっ…、ああ。笹原さん、田端に告られたって、本当?」
楓香に直接話しかけられた途端、委縮する男子たち。
同時に、常に注目されている美少女に声をかけられて、内心喜んでいた。
「あんな風に堂々と言うなんて、田端君ってカッコいいよね」
「へ…」
『振った』という話を聞いていた事もあり、思わぬ楓香の発言に、男子たちは驚く。
「陰では色々言うのに、直接話しかける事もできないあんたたちとは大違いだと思うんだけど」
楓香はちょっと笑い、そして自分の席へ戻る。
「………」
男子たちも、黙ってそれぞれの席へ戻って行った。

「…なら、付き合えばいいのに」
楓香の耳元で、ささやく声。
顔を上げると、謙介が楓香に背を向けて前の席へ歩いていく。
(何、どういう事…?)
楓香は声をかける事もできず、そんな謙介の後姿をただ見ているしかなかった。


月曜日は英語、火曜日はフランス語の、それぞれネイティブの家庭教師が謙介のところには毎週来ている。
今日は水曜日、楓香は謙介と勉強をする事になっていた。

「これを3乗して、単位行列になる120°回転行列を…」
謙介は楓香の隣で、過去の難関問題の解説をしていた。
「ちょっと待って…、1回、図解してまとめてみていい?」
懸命に聞かないと、楓香はあっという間についていけなくなる。
「この部分が頭で理解できないと、考え方が分からなくなるから図解するのはいいかもな。その間に飲み物持って来てやる」
楓香を置いて謙介は行ってしまった。
(あー…、難しすぎるよ…)
楓香はため息をついて、背もたれに背中をギュっとつけて腕を伸ばす。
(今日のケンちゃんのひと言、気になるなあ…)

すぐに謙介が戻ってくる。
(ケンちゃんは、私が他の誰かと付き合ってもいいのかな…)
飲み物を置くと、楓香の隣、自分のイスに再び座った。
「分かったか?」
「うん、多分大体…。間違ってないか見てくれる?」
楓香が書いた図を、謙介はチェックする。
その姿を楓香はじっと見つめた。
(ケンちゃん、下睫毛長いなあ…何か色っぽい)
右目のすぐ下にあるほくろも色っぽい、と楓香は思った。
『付き合えばいいのに』
謙介の言葉が楓香の頭でグルグル回って、離れなかった。
「まあまあだな。これを見る限り、お前も理解できてると思う」
「良かった…はあ…、ちょっと休憩してもいい?」
「ああ」
謙介は数学の問題集を閉じると、家庭教師に習っているフランス語のテキストを開いて読み出した。

(すごいなあ、ケンちゃんは…なんでこんなに何でもできるんだろう)
謙介が持って来てくれたカルピスを、楓香はひと口飲む。
勉強に集中していた気持ちが急に緩んで、謙介を意識してしまう。
中学に入ってから今まで、楓香はずっとこんな感じだ。
「…………」
謙介と話したい気持ちはいつでもあった。
しかし、ちょっとした雑談をするのにも、迷う。
(話せないよ…)
いつからか、謙介に何を言ったら良いのか楓香は分からなくなっていた。
2人でいる時は、勉強しているかエッチな事をしているかで、会話が弾む事はまずない。

沈黙を破ったのは謙介だった。

「今日、田端に告白されたんだって?」
フランス語のテキストから目を離さず、謙介は言った。
「ああ、告白って言うか…。聞いたの?」
(やっぱり『付き合えばいいのに』って言ってたの、間違いじゃないんだ)
楓香は謙介の言葉を聞くのが怖い。
「高校生で日本代表に選ばれるなんて、田端、すごい奴だと思うけど」
謙介が人を褒めた事が意外だった。
「楓香には勿体無いぐらいの男じゃん」
「……でも…」
楓香は何と答えていいのか分からない。謙介の真意が読めなかった。
「付き合いたければ、付き合えば」
「………」
(何でそんな事言うの…)

「オレ、関係無いし」

冷たい謙介の言葉が、楓香の心を刺す。
泣いてしまうかも知れないと思ったが、唾を飲みこんで深呼吸して、楓香は自分を落ち着かせる。
(やっぱりケンちゃんは私の事なんて…)
考えちゃダメだと、楓香は首を振る。
謙介が見れなかった。

「お前が誰と付き合おうと」
謙介は立ち上がる。
反射的に楓香は顔を上げた。
楓香を見下ろした謙介は、右手を自分のGパンのボタンに手をかける。
左手で楓香の頬に触れた。
それだけで楓香は、ビクンと反応してしまう。
楓香を見る謙介の顔は、冷たくもあり、優しくもあった。
謙介は楓香のあごを掴んで、クっと上げる。

「オレを慰めてくれるんだろう?」

既にGパンのボタンは外れていた。
楓香はそこへ手を伸ばし、謙介のズボンを下ろして、そしてボクサーパンツの上から謙介のものを触った。
「うん…」


楓香の口の端から、涎がダラダラと零れている。
咥える時には唾を飲みこむなと、謙介に言われているからだ。
 じゅるっ…ジュルッ…
十分過ぎる程濡れた口内で、楓香は頭を動かし、謙介のモノを愛撫する。
「んぐ……、んんっ…」
楓香の口には大きすぎるそれを、彼女は懸命に咥えた。

そんな彼女の様子に、謙介も興奮する。
(いい女になったな……本当に)
楓香は口を一度離し、涎まみれのままで彼の竿を舐め上げた。
美しい顔から大きく出した舌に、謙介のペニスを乗せて動かす。
「はあっ……、あぁっ…」
彼を愛撫しながら、楓香は小さく喘いでいた。

懸命に自分のものをしゃぶっている楓香の髪を、謙介は撫でる。
(可愛いやつ……)
もし楓香が他の誰かと付き合ったら……
(楓香に彼氏ができたとしても、呼びつけてオレのを飲ませてやろう)
他人のものになった彼女に、背徳的な行為をさせる想像をして興奮する。
(こいつがオレから離れられるわけないだろう)
謙介はそれを確信していた。

(自分以外の、他の男が……)
楓香に触り、キスし、挿入する事を考えると、胸が痛まない事はない。
もしそうなったら…、
(楓香にキスしてやるか……)

そんな事を考えると、謙介のそれは更に固さを増していく。
謙介は自分のものをしっかりと咥えた、楓香の唇をじっと見る。
キスへの渇望を、堪える。
(楓香……)

楓香の愛撫に任せ、温かい口の中へ彼は精を放った。

 

   

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