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言いなり学園
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11.キス

楓香と謙介が交際しているという噂は、少し伝わるだけであっという間に広がって行った。
楓香も謙介もともに、何もしていなくても日頃から周りからの注目を普段から集めているのだ。
その2人が付き合っているという話は、体育会系のクラスから蒼組まで、ほとんど全ての生徒が知る事となった。


「あの左近王子と付き合うなんて~、でも最近なんだか凄みがあって、左近皇帝って感じだけどね」
昼休み、紅組の端で楓香たちはお弁当を食べていた。
陽菜はそう言ってじっと楓香を見る。
「楓香がずっと好きだったのって、左近だったんだね~。あれはさすがの楓香でもハードルが高いわ」
普段の謙介は、決して愛想の悪いタイプでは無い。
むしろ誰にでも平均的に感じよく接するので、一部から「左近王子」と呼ばれている。
(「王子」なんかじゃないんだけどね…)
「…まあ、そういう事で」
楓香はため息をついた。
謙介の話をされると、楓香は気が重くなる。
実際の関係と言えば、ただ時折体を慰め合うだけで、それ以上の事は何もない。
「なーに?あんまり嬉しそうじゃないね」
愛美は楓香の反応を見て、言った。
「付き合ってるって話が広まってるけど、実は微妙なとこなんだ」
「何?うまくいってないの?」
陽菜が声を小さくして、身を乗り出して来る。

「私の片想いなのかも知れない」
思わず本音を楓香は口に出した。

そう言ってしまった方が楽だと思ったのだ。
無理に幸せな振りをする方が、ずっと辛い。
ただ公然と自分の片想いだけが知られて、偽りの噂が、まさに今の自分と謙介の関係を表しているような気がした。
「まだ付き合ってないって事?」
愛美が眉をひそめる。
「うーん…。微妙なの…。彼が何考えてるか、よく分からないんだ」
恋愛が始まった時のありきたりな悩みとして聞こえるように、楓香はあえてそう答える。
実際の事情はもっと複雑だったが、今言った言葉は楓香の本当の気持ちでもあった。
「そうなんだ…。じゃあまだウワーって喜ぶ感じじゃないんだ?」
陽菜も心配そうに楓香の様子を伺う。
「うん…。実はね。これ、人に言わないでね」
「言わないよ!」
愛美と陽菜はお互いを見て、また頷いた。

「…実は耀と楓香が付き合っちゃうんじゃないかと思ってたんだけど」
すっかり食べ終わってから、陽菜が小さい声で切り出した。
「私もそう思ってた」
化粧ポーチを開けながら、愛美もそう言った。
「耀と…?」
「うん。なんか2人って華やかで雰囲気が似てるって言うか。耀も楓香の事、すごく気に入ってるみたいだし」
耀は紅組の男子たちと、学食に行っている。
最近はすっかりこちらの男子グループに馴染んで、一緒に行動していた。
「耀は無敵だと思ってたけど、相手が左近王子じゃ珍しく勝ち目が無いかもね」
「そうかなあ…」
「他の男ならともかく、あの左近の事が好きだったら、耀って全然違うタイプだと思うもん」
陽菜の言葉に、楓香は複雑な気持ちになる。
彼女の言うように、謙介と耀は外見の印象では全く違うタイプだ。
しかしどこか似ているところがあるような気が、楓香はしていた。


「左近君と、笹原さんが…」
「でもあの2人ってお似合いかも…」
「だけど、2人でいるところって見た事ないよね…」
噂は楓香の耳にも入ってくる。
付き合っているという噂が広まっても、謙介と楓香の関係がこれまでと変わるわけでは無かった。
教室では「おはよう」等の挨拶をする程度で、相変わらず会話も無い。
蒼組の生徒の性質からか、教室では2人をからかうような者もいなかった。
先日楓香が相談に乗った、仲条だけは楓香に直接言ってきた。
「笹原さん、彼氏できたの?」
悪気なく明るい様子でそう言って来る仲条に、楓香も作り笑顔で返す。
「うん…。そうなんだ」
「でもさすが笹原さんだね!不動の学年トップの左近君を選ぶなんて!と言うか、左近君も笹原さんぐらいの人だったら、やっぱり好きになっちゃうって事かな」
無邪気な仲条の言葉が、楓香の胸に刺さる。
困った表情のまま、楓香はささやいた。
「でもあんまり言わないでね。秘密にしたいの」
「秘密…?」

(みんな知ってるのに?)
と仲条は思った。
しかし楓香の様子から、本気で言っていそうだと悟る。
(何か事情があるのかな…?)
仲条は疑問に思ったが、余計な事を言わず素直に楓香に頷いた。

『左近君も笹原さんぐらいの人だったら、やっぱり好きに…』
(本当にそうなってくれたらいいのに…)
席替えで、楓香と謙介の席は近くなった。
2列違いの斜め前に、謙介の席がある。
耀に以前に指摘されたのに、楓香は無意識に謙介の背中を目で追ってしまう。
満井の件があって以降、話すらしていなかった。
あの日、楓香を保健室まで連れて行った謙介は、楓香の怪我が大した事が無い事が分かると、すぐに先に帰ってしまった。
(まともに話すらしてないのに…)
付き合っている、なんてバカらしい話だと楓香は思う。

実態の無い噂が一人歩きしてしまった事で、謙介へと抱いていた切ない気持ちが、今は空回りして空しさに変わっている。
あまりにも噂と乖離した現実。
普通に電話したりメールをする事さえ無いのに、周りだけは自分たちを恋人同士だと思っている。
(ケンちゃんは、何とも思ってないのかな)
付き合っているという噂が広まっても、楓香を特別扱いする素振りなど全くない。
付き合っているという噂を誰かにされる度に、本当はそうでない事を思い知らされて楓香は辛かった。
「はあ…なんか泣きそう…」
(こんな事で、注目されたくないのに…)
常に学年トップの『左近謙介』が誰かと付き合う、それだけで十分に学園中の興味の目が向けれらるのは、楓香にもよく分かる。
それが自分である事で、さらに声高に噂されるのも、客観的に考えれば仕方のない事だとも思う。
「普通に、会う事だって…、学校で話したりする事だって無いのに…」
楓香は携帯を握りしめた。

どうせなら、と思い、謙介にメールを打つ。
『今、何してるの?』
ただそれだけ入力して、勢いで送信を押す。
(あーあ、送っちゃった)
返信も期待せず、ベッドに横になっているとすぐに携帯のメール着信音が鳴る。
「うそ、ケンちゃんからだ…!」
慌てて開くと、1行だけの文章が返って来ていた。
『家庭教師の仏語の課題』
(あ、そうなんだ…)
事務的に返信された事にちょっとガッカリしたが、すぐに普通に返してくれた事が嬉しくもあった。
緊張してメールを送ったので、少しホっとする。
(会いたいな…)
何の感情も感じられない、謙介のメールの1行を、楓香はドキドキしながらずっと見ていた。
(ケンちゃんの笑顔が見たい…)

目を閉じて、謙介の顔を思い浮かべる。
彼が笑顔を見せる事は滅多になくて、学校での作ったような愛想笑いでは無く、本当の笑顔が見たいと楓香は思う。
思い出す彼の目は、冷たくて、そして欲情に溢れている。
2人きりの時の謙介は、いつもそんな表情だ。
その視線に射抜かれると、楓香は体の奥から熱くなっていく。
明るいところで、体中の隅々まで、そんな彼にいつも見られてしまう。
(ケンちゃん…)
初めて彼の前で足を広げた時の恥ずかしさを、今でも覚えていた。
謙介に見せるために、そうした。
初めてそこに触れられた衝撃。
まだ細い彼の指で撫でられたそこから、沢山溢れさせてしまった事。
濡れていく様子を観察され、指摘される恥辱。
謙介になら、何をされても楓香は良かった。
あの当時から、それは全く変わっていない。
大人になり、今でははっきりとした快感を、お互いに与えあえる様になっていた。
先日謙介にされた事を、楓香は思い出す。
自分自身の性器を見せられ、そこへ何度も謙介の指が出入りしていた。
(ああ……なんていやらしいんだろう…)
思い出して、楓香は濡れてしまう。
謙介の事を考えようとすると、2人きりの時は性行為ばかりしているせいで、どうしてもそんな映像ばかりが頭に浮かんでしまう。
挿入され、抜かれた指にはベットリと楓香の愛液がついていた。
それを謙介に何度も舐められた。
指を奥まで挿入されて、中の感じる部分を擦られた。
謙介の舌が、直接楓香のそこに触れる。
そして楓香に見せつけるように、彼の舌が肉芽を揺らす。
達しても彼の唇はそこから離れず、楓香の体は何度もビクビクと波打った。
(ああ…ケンちゃん…)
「はぁ…はぁ…うんっ…」
右手を伸ばし、ショーツの中へ入れていた。
謙介にされた事を思い出し、楓香は自分自身を慰めた。


12月に入り、数日が経った。
あれ以来、楓香にも謙介にも、交際を求めてくるような生徒はいなかった。
(ケンちゃんの言うように…)
付き合っていると公言した効果があったのかも知れないと楓香は思う。
最初のうちこそ噂になったものの、普段一緒にいる事のない楓香たちの事に、いつまでも興味を持つ者もいなかった。
―― ただ1人を除いては。


「楓香、今日オレ当番なんだけど、ちょっと戻るまで待ってて」
耀はそう言うと楓香に返事をする間も与えず、日誌とプリントをまとめて教室を出て行ってしまった。
(待ってて、って…)
放課後、蒼組の生徒達は一斉に帰宅してしまう。
ガランとした教室。
楓香は仕方なく自分の席に座る。
(別に用事は無いけど…)
耀の強引で有無を言わせない感じは、少し謙介に似ていた。
(一緒に帰るのかな…)
別に耀と一緒に帰る事はどうでも良かった。
ただ、謙介と付き合っている事になってる手前、誰かに見られてもし謙介に余計な事を言われたりするのが困る。
(2人で帰るのは、嫌だな…)
耀の携帯は、おそらく教室に置かれているカバンの中に入っているだろう。
(待たないといけないか…)
諦めて、楓香は教室を見回す。
高校生活も残り数か月。
微妙な距離の謙介とはどうなってしまうのか。
楓香は不安しか無かった。

「…誰か待ってるのか」
聞きなれた声に、楓香は一瞬ビクンとしてしまう。
振り返ると、教室の入口に謙介がいた。
「ケンちゃんこそ、帰ったんじゃないの…?」
「ああ、忘れ物」
そう言って楓香に近づいてくる。
教室で2人きりというのは、初めてだった。
それだけで楓香はドキドキしてしまう。
スラっとした立ち姿に、改めて好きだと思う。
少し離れた斜め前の席、机の中から謙介はノートを取り出す。
「今日、家でこれ使うから」
そんな説明をするのは、謙介にしては珍しい。

「帰らないのか」
「えっ…」
その言い方に、帰ろうと誘われた気がして、楓香は思わず固まってしまう。
(帰りたい……)
もちろん謙介と一緒に帰った事などこれまでに無かった。
(でも、耀が……)
楓香は迷ったが、諦める。
「人を待ってるから…」
「……ふうん」
謙介はカバンの置いてある机に目をやる。
耀の席だという事は、すぐに分かる。
「じゃあな」
「うん…、じゃあね」

謙介に、耀を待っている事を気づかれた。
楓香は嫌な緊張感が走る。
(ケンちゃんはどう思ったんだろう…)
謙介と付き合っている事になっているのに、耀と帰ろうとしている事。
それ以上に、自分が耀と帰ろうとしている事にどう思ったのかが、気になる。
(ケンちゃんは、私が他の男の子と帰っても何とも思わないのかな…)
もし逆の立場ならと想像するだけで、胸が潰れそうになる。
謙介に女子の影がないから、楓香も今まで黙って彼に従って来れたのかも知れない。
(やっぱり、嫌だ…)
何か理由を付けて、学校を出たら耀と別れて帰ろうと思った。
その時、耀が教室に戻ってきた。
「謙介に会った?」
「えっ?」
耀が謙介とすれ違った事を聞いて、楓香の動悸が激しくなる。
という事は、謙介も教室へ向かう耀に会ったという事だ。
「会ったよ、忘れ物取りに来た」
「へー…」
耀は楓香の席の、隣の机に座る。
蒼組は最上階の端のクラスで、ここを通る他の組の生徒はいない。
蒼組の生徒も皆帰ってしまったから、教室にはもうだれも来ないはずだ。

「噂だとさ、楓香、謙介と付き合ってるんだって?」
席に座っている楓香の顔を、耀は覗きこむように見た。
「う…、うん」
心を見透かすようなその視線に、楓香は思わず目をそらす。
大々的に噂になった時、耀はその話を全く楓香へ振って来なかった。
耀だけは、楓香が謙介の事を好きなのを知っていたから、わざわざ噂を正したりしないものだと、楓香はその時はそう思っていた。
(でもきっと、真意は違う)
楓香がそう思ったのと同時に、耀が言葉に出した。
「でも、本当は付き合ってないよね」
同情を含んだようなその口調が、楓香の胸を刺す。

(隠せない…この人には…)
楓香は嫌な汗が出てくる。
見抜かれた事の恥ずかしさとみじめさに、指が冷たくなってくる。
「なんで謙介が好きなの?」
「………」
面と向かって聞かれると、言葉に詰まってしまう。
誰しもが、『あの左近謙介なら、女が好きになって当然』という受け留め方をしていた。
こんな風に聞かれた事は無かったのだ。
「付き合ってないくせに、なんで付き合ってるふりなんてしてるの?」
「それは…」
「謙介は楓香が自分の事を好きなのを知ってて、なんでそんな事させるのかな?」
楓香の顔を覗き込む耀は、いつになく真剣な顔をしていた。
神秘的で色素の薄い瞳が、深く楓香を見る。
「……耀…」
(聞きたくない)
自分でさえ見ないようにしている気持ちを、言葉で目の前に晒されるのは辛い。
見ない様にしているだけで、分かり過ぎている自分の惨めな思いを、他人に知られたくなかった。

「せっかく可愛いのに」
耀は片足に体重を乗せ、机に乗っていた腰を上げた。
「楓香は、もっと笑顔になった方がいいのに」
楓香の悲しみを映すような、耀の瞳に、楓香は吸い込まれてしまう。

(えっ……)


楓香の前髪に、耀の前髪が触れた。
熱い息とともに、耀の唇が楓香へ重なる。
その感触が柔らかすぎて、楓香は一瞬何が起きているのか分からなかった。

声を出そうとした時、唇が塞がれている事に気付く。

「いやっ!!」

楓香は耀を突き飛ばした。
耀はバランスを崩し、座っていた机に手をつく。
「最低……!!!」
楓香はカバンを取り、耀を見ずに立ち上がる。
そのまま全速力で、教室を出た。


(やだ…、キスされた…!!!)
走りながら、無意識に涙が出ていた。
謙介としたくて、ずっとできなかったその行為。
(キスされちゃった……)
涙もぬぐわずに、唇を擦って走る。

(初めてのキスは、ケンちゃんとしたかったのに…)
ずっと我慢していた想いと共に、悔しさがこみ上げる。
(もう……)
やり場の無い喪失感をぶつけるところもなく、楓香はただ走った。
電車に乗った事もあまり覚えていない。
そしてまた、走った。


「謙介さん」
家庭教師が来ている部屋へ、緑川がノックをして謙介を呼ぶ。
「何?」
謙介は勉強を中断されるのが嫌いで、あからさまに不機嫌にドアを開けた。
「お勉強中のところ、すみません…。楓香さんが」
「え?楓香?」
思ってもいなかった緑川の言葉に、謙介の態度が変わる。しかしそれも一瞬だった。謙介は不機嫌なまま、続けた。
「…楓香が何?用事」
「楓香さんが来られて…。普通の様子じゃなかったものですから、和室にお通ししています」
「………分かった」
謙介はドアを閉めて、家庭教師の元へ戻った。


和室には緑川が暖房を付けていて、謙介が部屋に入ると温かい空気が流れてくる。
「………」
鼻を啜る音の方へ目をやると、楓香が部屋の隅で膝を抱えて泣いていた。
「どうした?」
謙介は近づいて、楓香の側で膝をついた。
「……ケンちゃん…」
小さな声でそう言うと、楓香は謙介に抱きついてくる。
そして子どものように泣きじゃくった。
「……どうした?何があった?」
謙介は楓香の背中に腕を回す。
楓香は謙介の腕の中で、嗚咽する。
「…………」
謙介は泣きじゃくる楓香の背中をさすった。
しばらく、ただそうしていた。


「う…、うっ…」
(ケンちゃんの胸…)
謙介の胸に顔をうずめて、楓香もだんだんと落ち着いてくる。
髪を撫でる彼の手。背中に回された腕。
その温もりに、次第に理性が戻って行く。
(ケンちゃん…)
我を忘れ、衝動的にここへ来てしまった。
楓香が顔を上げると、すぐ近くに謙介の顔があった。
彼のその表情は穏やかで、優しかった。
「ケンちゃん…」
「落ち着いたか…?」
謙介の腕の力が緩み、楓香は少しだけ彼から離れる。
それでも謙介の腕は楓香に回されたままだった。
「……ケンちゃん、家庭教師の日だったよね…」
「そう。もう今日は帰ってもらったから」
そう言う謙介の言葉に、楓香を責める意図は感じられなかった。
「ごめん…、ごめんなさい…」
衝動的に来てしまった事を、改めて楓香は後悔する。
「いいよ。…それより、どうした?何かあったのか」
謙介は楓香の髪を撫でた。
その手つきの優しさに、楓香はまた涙が出そうになる。
「……私…」
言いかけた言葉を、楓香は飲みこむ。
言葉にすると、また泣けてしまいそうだった。

(やっぱりケンちゃんが良かった……)
楓香は謙介を見た。
謙介は楓香の言葉の続きを待つように、ただ見つめ返した。
(好きなのは、ケンちゃんだけなのに…)
喉の奥で、丸い固まりが大きくなっていくような気がした。
楓香は話せず、口を開いたら嗚咽してしまいそうだった。
目の前の謙介の、緩んだ雰囲気を心から愛しいと思う。
ずっと我慢してきたキスを他の誰かに奪われてしまったショックが、また思い出される。

謙介の胸に当てていた手を、楓香は彼の頬に移動させる。
彼の腕は自分に回されていた。
楓香は目を閉じて、膝に力を入れて少し浮き上がる。

(ケンちゃん……)

楓香は謙介の唇に、自分の唇を重ねた。
気が変になりそうな位渇望した、謙介とのキス。

「………」
唇を離し、楓香が目を開けると、謙介は楓香の肩を掴んでゆっくりと押した。
謙介は自分の唇に、手を当てて擦る様な仕草をする。

「……何なの?」

その声の固い響き、楓香を斜めに見る視線は、決してこのキスを受け入れていなかった。
楓香は先程自分が耀に向けた感情を、鏡のように謙介から自分へ向けられているような気がした。
楓香は凍りついた。
謙介から感じたのは、自分への嫌悪感だけだった。

 

   

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著作権は柚子熊にあります。
いかなる場合でも無断転載を固くお断りします。

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