泳ぐ女 STORY Message LINK

キスが止まらない
 
 小説目次 ススム

1.あの子のキス

「この時期に転校生なんて、珍しいよな」
「へー、で、女?このクラスに入ってくんの?」
全然興味が無かったが、美少女だったらいい、とオレは思う。

休み時間の教室。自分の席で携帯をいじっている生徒が多い。
オレもそんな1人だ。
新太は転校生について、語った。
「特進クラスだってよ。最近、留学で2人いなくなっただろ。欠員がいるから異例の編入なんだと」
「詳しいな、新太。で、女なのかよ」
オレはスマホから目を離さずに、また同じ質問をする。
「そうそう、女だって。なんかいかにも特進に転入してきそうな、地味で真面目な子らしいぜ。まあ、元春のタイプではないよ」
「ああ、そー…」
今年の春から付き合ってる他校の彼女と、オレはラインをしながら適当に新太に相槌をうつ。
高校3年の秋ともなれば、周りは受験一色だった。
勉強が好きじゃないオレだって、家に帰れば嫌でもやらなければならない。
最近はそれを口実にして、彼女ともあまり会っていなかった。
それが不満らしくて、学校の休み時間でも頻繁にメッセージを送ってくる。
オレはそれが鬱陶しい。
彼女そのものは嫌いじゃないのに、どうもオレは彼女の行動が気に入らない。
(気が合わねーんだよな……)
別れようかな、と一瞬思う。
でも見た目は可愛いかったし、受験勉強で溜まるオレの色んなものを彼女に吐き出せるメリットは大きい。
(まあ、いいか…別れるのもめんどくせーし…)

自分で言うのもなんだが、女にはモテる方だった。
彼女との交際が切れると、気付けばまた他の女子から告白されてた。
好みだったら、オレはとりあえず付き合う事にしてる。
告白してくるのは大体あまり話した事もないような子で、「友達から」何て言って始まっても、オレはあっという間に手を出してた。
相手もそれで納得してたみたいだし、まあ、そんなものかなと思っていた。
オレの女子への執着は無かった。
あいつ以外には……


夜、英語の言い回しでどうしても納得できない部分があって、オレは特進クラスで唯一の友人、鈴鹿昌明に電話する。
奴とは高校1年の時に同じクラスで、新太と一緒に仲良くしていた。
「おー、昌明?今いい?」
『いいぜ、どうした?』
オレからの質問を、昌明は的確に答えてくれた。
これが特進との差かと思うと、受験に対して不安になってくる。
一通り勉強の話が終わり、オレたちは雑談を始めた。
「ところでさ、お前のクラス、転入生来たんだって?」
『来た来た。でも地味で印象の薄い子だったぜ』
「新太もそう言ってた」
『名前が変わってたな…、クメザワだったっけ…』
「久米澤?」
オレの胸がざわつく。
「フルネーム、分かる?」
『何だっけ…結構可愛い名前だったような気がする…、さゆり?とかそんな感じの…』

オレの動悸が更に早くなる。
携帯を握る手に汗までかいていた。
(久米澤、緋依…)
名前が久米澤で、地味で……と言ったら、オレの中ではあいつしかいない。
『ひより』しか…。



マンションの同じフロアに住んでいた、ひより。
すぐそばに住んでいて、小学校の時からの幼馴染だ。

その頃まだ中2だったオレは、当時付き合いかけた高校生の女に夢中だった。
そんな彼女にキスしたら、言われたひと言が、こうだ。
『元春、キス全然慣れてないんだね、かわい~』
今思えば、どうでもいい台詞だ。
だが中学生のオレにとっては、男のプライドを踏みにじられたようで、それが猛烈に悔しかった。

オレは幼馴染のひよりの部屋に行った。
「ひより、キスの練習させろ」
「はあ?」
オレを見てあからさまに不審な目を向けるひより。
自室にいた彼女は、上下ジャージ姿に、長い髪を耳の下で縛るツインテールをして、度の強い眼鏡で勉強していた。
当時から真面目で日頃から勉強ばかりしていたひよりは、お洒落には無縁の地味ダサ女だった。
一方、学校でも派手なグループにいたオレは、そんなひよりをどこか見下していた。
「どーせお前、付き合ってる男もいねーんだろ。ファーストキスしてやるから、キスの練習させろ」
「何よ、キスの練習って。ダッサ。バカじゃないの。あんたってホントにバカだよね」
『キスの練習』なんてマジで黒歴史だと、冷静に考えられる今になってみると本当にそう思う。
しかし当時のオレはひよりの言う通り本当にバカで、そしてひよりならオレの言う事を聞いてくれるんじゃないかと甘く考えていた。
「なんでキスの練習なんてしたいと思ったの?」
そう言うひよりは呆れてはいたが、もうバカにはしていない。
「うっ…」
オレは素直に話した。
どうもオレはひよりには弱かった。
学校でのひよりは大人しくて、立ち場的にはオレの方が全然強いはずなのに、2人になるとどうもダメだった。
小さい頃から全てをさらけ出し過ぎて、オレの更なる恥ずかしい黒歴史を、ひよりには色々と知られている。
そんなひよりに今更格好つけても、逆に格好悪いだけだ。

「いいよ、キスの練習しても」
「マジで?」
「その代わり、する時、私の言う事聞いてよ」
「…分かってる。あと、率直な指摘も頼む」
思い起こしてもどうしようもなくバカなのだが、当時のオレは真剣だった。

ひよりはベッドの上に正座を崩したような格好で座る。
ベッドの上に女子がいるというだけで、普通は大興奮モノなのだが、相手はひよりだ。おまけに緑の上下ジャージ姿だった。
「ベッドに上がっていいの?」
オレは言った。
「いいよ。そっち狭いし」
ひよりは普通に答える。
ベッドに上がり、オレはひよりに向き合うように座った。
ひよりとは言え、さすがに緊張してくる。

「眼鏡外そっと」
眼鏡を取り、ひよりはすぐ側の本棚に置いた。
久しぶりに見るひよりの眼鏡無しの顔と、これからする事の期待で、オレはようやくここで少しだけドキドキしてくる。
「そうだ、そうそう、手」
ひよりはオレに両手を伸ばして来る。
「は?何?」
オレは何の事か分からなくて、一瞬ビビる。
「手をこうやって~…」
オレの手を取り、ひよりは手のひら同士を合わせる。
そしてお互いの指を指の間に入れた。
今で言う、恋人繋ぎってやつだ。
ただ、向かい合ってしているので、まるでレスリングの組手みたいな状態になってる。
ひよりがジャージ姿なので、余計にそんな感じだ。
「なんだこれ」
オレは笑ってしまう。
「少女漫画とかでよく見るじゃん。でも実際にやってみるといまいちだね。多分、相手が元春なのが悪いんだろうけどね」
ひよりも繋がれた両手を見て、渋い顔をする。
「この手のままで、やんの?」
「うん、とりあえずそれでやってみて」
「じゃあ……」
オレは唾をゴクンと飲み込む。
ときめきとは違う緊張感があった。
ただでさえ自信の無いキスだから、した後にひよりに怒られそうな気もした。

ひよりがじっと見ているので、オレは言った。
「目、開けてんなよ。つぶれよ」
「キスするとこは見てちゃダメなの?」
「ダメだ」
じっと見られていたら永遠に無理だと思ったから、ここはハッキリ答える。
「分かった……」
ひよりが目を閉じる。

目を閉じて無防備になったひよりの姿を見て、オレの動悸が更に少し早まる。
手を握り合ったままだ。
オレは近付いて、ひよりの唇に自分の唇を合わせた。

ふにゅっ…

と、音がしたような気がした。
ひよりに対してビビっていたせいか、ゆっくりと触れる事ができたと思う。
ひよりの唇はすごく柔らかくて、その感触は予想外に良かった。
無意識に手をギュっと握っていた。

唇を離すと、ゆっくりひよりが目を開ける。
「痛いよ…」
「えっ?痛かった?!」
オレは焦る。
「違うよ、手…」
「ああ……ごご、ごめん」
オレは手を離した。離す時、ガチガチに固まっていた事に気付く。

「…………」
「…………」

ひよりが黙っているので、仕方なくオレは聞いた。
「どうだった?」
「分かんなかった……」
「ええ?」
オレの落胆は一瞬だった。
「もいっかいしよ……」
ひよりの唇がオレの唇に重なってきた。

柔らかかった。
とにかく柔らかくて、唇の感触だけで猛烈にエロかった。
(なんか、スゲー…)
オレはひよりの唇を舐めた。
ひよりの口が、薄っすらと開く。
そこに舌を入れると、ひよりの熱い舌に触れた。
触れあった生々しい感触に、オレの頭の中は一瞬で濃いピンク一色に染まる。
(舌も、柔らけー…)
相手がひよりのせいなのか、体中を駆け巡る心臓の音とは正反対に、なぜかオレは落ち着いていた。
(ひよりの口の中、気持ちいい…)
口の中ってこんなに熱いものなのかと思った。
熱くて濡れたその中、ひよりの舌が更に熱い。
オレの舌を探ってうごめくその物体が、オレの官能を刺激する。

「うんっ……」

初めて聞く、色っぽいひよりの声。
それがオレの尾てい骨から背骨を通り、頭の先を真っ直ぐに抜けた。
その一直線の感覚とともに、オレのそれも勃ち上がる。

「うあっ…」
オレは思わず唇を離してしまう。
「はあ…はあ……」
息が上がっていた。
ふとひよりを見ると、ひよりも真っ赤な顔をして、息を吐いていた。
「はぁっ……」
「ひより……」
オレはひよりの頬に手を当てた。
また唇を重ねた。

ひよりの舌は、ひよりとは別の意志で動く生き物のようだった。
オレの舌の上になったり下になったり、横になったり…実際どう絡んでいるのかは分からなかった。
ただ、熱い。
ひよりの唇が、オレの唇を包む。
ひよりの歯の固さ、舌の柔らかさ。
口内にも五感があって、そこにオレの全神経が集中する。
オレは夢中でひよりの中を探る。
どのくらいそうしていただろう。

「はあ……はあっ…、す、スゲーな…お前…」
オレは口の端からいつの間にか垂れていた涎を手で拭いた。
「キスって……、こんなに激しくするものなの?」
ひよりが言った。
「わ、分かんねえ…」
オレは答える。

ひよりはオレより早く落ち着いて、ベッドの上にもう1度座り直した。
「ねえ、元春、もしかして興奮してんの?」
「は?」
ハッキリ言ってめちゃくちゃ興奮していた。
ひよりと距離のある今、改めてベッドの上にいるんだと思う。
このまま押し倒せば、ぶっちゃけヤれる。
しかし無理やりそんな事をしたら、ひよりに殴られるどころじゃ済まないし、一方的に事を運ぶのはマジで犯罪だし、オレにそんな度胸は無い。
「そりゃあ、興奮するだろ。あんなキスすりゃあ…」
「じゃあ、脱いでよ」
「はあ?」
「キスする時に私の言う事聞くって言ったじゃん。脱いで見せてよ」
「ああっ?」
(何言ってんだ、コイツ…)
ひよりはニヤニヤして余裕の笑みを見せている。
「脱がないとキスしてあげないよ」
(コイツ、ドSだろ…)
しかしオレが躊躇したのは一瞬で、脱ぐ=エッチに持ち込みやすくなるという下心がはるかに勝った。
ひよりの言う通りオレが脱いでしまえば、…あとはキスの雰囲気に流れて上手い事ひよりを脱がす事ができれば…あわよくば童貞が捨てられるかも知れないと思った。
オレはTシャツを脱ぐ。

「ちょっと、何してんの?全裸だよ!」
「ウソだろ?」
さすがにオレだけ全裸というのは恥ずかしかった。
それでもさっきのキスがまたしたくて、そして裸のオレにひよりが何かしてくれるんじゃないかという期待が持ち上がって来て、結局オレは全部脱いだ。
ジャージ女の前で全裸のオレ。
かなり屈辱的な姿だ。
(もう、押し倒して犯してやろうか…)

ひよりは眼鏡をかけて、オレをじっと見ていた。
「じろじろ見んじゃねーよ」
オレは微妙に股間を隠そうとしたが、それは思い切り勃っていて隠しようがない。
「すごーい、男の子って!デカい!グロい!デカイ!」
ひよりは顔を半分隠しながら、それでも目はしっかりオレのそこを見ていた。
オレはグロいと言われてムカつきながらも、デカいとも言われたので、それも2回言われたので、ムカつきよりも嬉しさの方が勝ってしまう。
「すごーい、内臓が出てるみたいー、すごーい、すごーい」
あまりにもすごいと連発されるので、オレは見られる事に対してどうでもよくなってくる。
(てめー、ヤラせろよ…)
ムラムラしてきて、思わずひよりに手を伸ばしかける。

「元春」
普段絶対に出さないような可愛い声で、ひよりはオレの名前を呼んだ。
唇が重なる。
(ああ、これやべー…)
キスで、やられると思った。
ひよりのキスのせいで、オレの頭がおかしくなる。
(何だよ、この柔らかさ…)
触れている唇は、人間じゃないんじゃないかと思うぐらいの柔らかさだった。
緩いゼリー。それも温かいやつ。
オレはその柔らかい物体を割って、ひよりの中に舌を入れた。
裸だという事も、忘れていた。

「!」

何かがオレの、最高に敏感な状態にあるそれに触れた。
唇が合わさっているから下を向けなかったが、それがひよりの手だという事はすぐ分かった。
ひよりの指がオレの先端の部分を触る。
オレは既にかなり興奮していたから、もう先を結構濡らしていた。
それを撫で広げるように、オレのそこを触るひよりの手。
オレの形に沿って、その手がオレのそれを擦る。
(うわ、それダメだ、やべっ……)
「ちょっ…待って…」
ひよりの唇を離してオレがそう言った時は、もう遅かった。
興奮しまくっていたオレは、すぐにそれを吐き出してしまう。

「やー…、何か出てきたぁ……」
(お前が出したんだろ…)
オレは目についたティッシュの箱に手を伸ばす。
ひよりは自分の手についた、オレの精液を見ていた。
「ご、ごめん…、ほらもう、拭けよ」
オレはティッシュをひよりに渡そうとした。
しかしひよりは意外な行動をとった。
手についた液体を、舐めたのだ。

「うえ、変な味……」

「じゃあ舐めんなよ。早く拭け」
当時はどうしてひよりがそんな事をしたのだろうと疑問だったが、今思えば多分、それは好奇心だったんだろう。
オレたちは、今もそうだが思春期で、普段真面目にしているひよりだって性への興味はあったはずだ。
ひよりは人前では大人しいキャラだったが、実際にはそうでは無い事、オレはよく知っていた。
そもそもあいつのオレに対する態度は、デカい。
そして後で実感していく事になるのだが、ひよりは猛烈に、エロい。

「あーあ、結構な時間、元春のせいで使っちゃった。もう気が済んだんなら帰って。勉強するから」
そう言って、少し乱れたベッドを整え出すひより。
オレを見ると、嫌な顔をして帰れと手で示す。

オレは釈然としないまま、マンションの廊下に出て並びにある自分の部屋へと戻る。
(何だったんだ…)
色々と、頭を巡った。
それでも思い出すのはあのキスの事ばかりで、それはオレを興奮させた。


学校では全く喋らないのに、オレはその後もひよりの部屋へ行った。
そしてまたキスをした。
キスをしている時のひよりは別人と言うよりも、
ひよりとのキスは別世界だった。
現実離れした感触と興奮が、オレの脳を別次元へと誘う。
その度にひよりはオレのトランクスの中に手を入れて、オレを吐き出させた。
あれ以来全裸にされる事は無かったが、脱がされない分、オレはいつもパンツを汚して家に帰る羽目になった。
あいつの体には全然触れなかった。
夢中でキスをして、あいつの手で射精させられる。
そんな事を何度もした。

9月から続いたそんな関係も、12月になり、ひよりの家の引っ越しで唐突に終わった。
ひよりは携帯電話を持っていなかったから、連絡先も分からなかった。
プツンと切れたその関係。
あいつと会えなくなってから、もう4年近く経つ。

ひよりと付き合っていたわけじゃなかったし、実際のところ、好きだったのかどうかも分からない。
しかしその後も何人かと付き合ってみたが、あれ以上のキスはないというのは事実だ。
1人でエロい想像をしようと思うと、ひよりの事ばかり考えてしまう。
あのキスを思い出さなかった日は、なかった。
(ひよりとキスしてーな…)
もう2度とひよりには会えないのかもしれない。
もし願いが1つだけ叶うとしたら、あのキスをしたい。
そう思うくらい、ひよりのキスが恋しかった。


(転校生…あの、ひよりなのか?)

明日学校に行ったら確かめようと思った。
その夜はほとんど寝られなかった。


 

   

 小説目次 ススム

著作権は柚子熊にあります。
いかなる場合でも無断転載を固くお断りします。

アクセスカウンター