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G(テノヒラ2)
小説目次
 
手が感じる、なんて………あたしの体、ヘンになっちゃったんじゃないんだろうか。


小さい頃に母親がケーキを作ってくれたとき、ホイップの余りを舐めるのが好きだった。指ですくって、甘いそれを舐める。
だけど、いつのまにかホイップは無くなっていて、あたしは指を舐めてた。
口に触る指の感じが良かったのか、指に感じる舌の感触が良かったのか、…あたしは気が付くと何もついていない指をいつまでも舐めていた。
そんなことを思い出す。


もしかしたら、もっと前からそうなっていたのかも知れない。
気がついたのは、陸上部のストレッチのときだった。

部活の夏休みを挟んで、久しぶりの練習だった。
「志保、随分日焼けしてない?」
「日焼け止め塗らないとダメだね…。佳奈美は白いよねー。
やっぱりちゃんと塗ってる?」
「ちょっとだけねー。結構肌が弱かったりしてさ」
志保と二人一組でストレッチをしていた。
体を横に伸ばそうと、二人で手を繋いだその時だった。

「!!!」

一瞬何が起きたのか分からず、あたしはしゃがみこんでしまった。
「ど、どうしたの?!佳奈美??」
志保は驚いてあたしの側に座り込んだ。
「……何でもない……」
たいした刺激じゃなかった。
だけど、変な感じが体を走った。
普通に日常生活していたら、絶対感じない感覚。
「大丈夫、大丈夫」
あたしは平常心を装って、また志保と手を握り合った。
「…っ!…」
あたしはすぐに手を引っ込めてしまう。
志保が本気で心配して、あたしを見る。
「何?何?…もしかして、手、…ケガでもしてる?」
いい感じで突っ込んでくれたと思った。
「…そうかも、……分かんないけど…ちょっと、…抜けるね」
多分あたしは痛そうな顔してたんじゃないかと思う。
だけど実際は全然違ってた。

あたしは「感じる」っていうの、
その時は実感として、全然分かってなかった。

その日、あたしはすぐに部活を切り上げて家に帰った。
頭の中は軽くパニックだった。
(なんなんだろう……あの感じ…)
自分で幾ら手を握ってみても、何もおかしな感じはなかった。
普通。ごく普通。ただ、触ってるだけ。
部屋の色々なモノを持ってみる。触ってみる。
感触が気持ちいい柔らかいビーズクッションとか、冷たいコップとか。
………全然なんともない。
何だったんだろう、あれは……。


次の部活の日、普通に軽くランニングをして体をほぐす。
先日のことなんてすっかり忘れていた。
「じゃあ、ストレッチしてくださーい」
マネージャーの声が掛かる。
いつものようにあたしは志保と組む。
また、手をギュっと握られたとき…。

「あっ…!」
あたしは声を出してしまった。

「えぇっ?また??」
志保の方が慌てて手を引っ込める。
「……ご、ごめん……」
あたしは何故か志保に謝った。
勿論手を離せば、あの感覚はなくなる。
「ねぇ、佳奈美……。もしかして、骨とか何かなってるんじゃない?
一度病院に行った方がいいよ」
「……そうかもね…」
あたしは焦ってた。
その日は手を触らないようにしながら、何とか部活の時間を終えた。

何となくだけど、あたしはその感覚の意味を知った気がした。
性的に、……気持ちがよかったんだ。
手を触られると、声が出ちゃう感じ。
「あっ」って感じ。
一瞬のことだっただから、それ以上のことはよく分からないけど。
試そうにも、試しようがない。
いっそ志保に素直に打ち明けて、一緒に考えてもらおうかとも思った。
だけど……すっごく恥ずかしかった。


あたしは悩んだ。
とりあえず、部活の時間も上の空だった。
ストレッチは志保と組むから、手には触らないでもらった。
骨がおかしいとか、そんなんじゃないことはよく分かってた。
ある日、ぼぅっとしてて足をひねりかけてしまった。
このまま上の空で部活を続けてたら、いつか大怪我してしまいそうだ。


あたしは部活を辞めようと思った。
部長は優しい人で、体のことならしばらく休部すればいいからと言ってくれた。
あたしはその言葉に甘えた。

それでも中学の時から続けてた陸上には未練があったし、この変な感覚に対してもどうしていいのか分からなくて結構悩んでいた。
考えすぎて眠れなくなる日もあった。

そして寝不足のある日、……あたしは本当に眠すぎて、そしてダルくて体調まで悪くなってしまった。
一人で放課後、学校を出た。
ダッシュで帰ってたせいか、まだ下校する人もそんなに歩いてなかった。
(はぁ……)
あぁ…貧血かも…。
元々あたしは血が薄いんじゃないかと前から思っていた。
肌が白くて、細い血管が体のあちこちで見えてたし。
フラフラしてたら、誰かに肩を抑えられた。
顔を上げたら、同じクラスで陸上部の水城くんだった。
あたしの中の彼の好感度は高かった。
彼はハイジャンをやっていて、その飛ぶ姿がすごく美しかったから。
走るぐらいしか脳がないあたしはその姿に憧れていた。
「水城くん…」
「大丈夫か?なんか、倒れそうだったぞ」
水城くんが心配そうにあたしを見てる。あたし、そんなにフラフラしてたんだ。
「うん……平気」
しっかり立たなくっちゃって思ったとき、またグラっとよろけてしまった。
立ちくらみかも…って思ったときだった。

「あっ!……ダメっ!!」
「…えっ?」

水城くんの手が…!あたしの手をしっかりと掴んでいた。

「あっ、……あぁぁぁんっ!」

自分でもビックリするような恥ずかしい声を出してしまった。
あたしはその場にしゃがみこんでしまう。
(何、…何?今の……??)
志保の手なんかとは全然違った。
首の後ろの方までゾクっとした。背中にビリってきたみたいだった。
「はぁ…はぁ…」
あたしは息があがりそうなのを耐えた。
体が性的な余韻で、もっと刺激を望んでいるのを感じた。
やばい、あたし、…欲情した…。

水城くんはあたしを家まで送ってくれた。
あたしは彼にこのことを打ち明けた。
今、彼に打ち明けなかったら、もしかしたら本当に誰にも話せないかもしれないって思った気持ちもあった。
それから、何となくだけど水城くんは信用できそうだった。
何故かこういう話って、異性にした方がいいような気がしてたし。

「今度さ、改めて色々試してみない?」

水城くんの口から意外な言葉が出た。
「……試して…って?」
水城くんが立ち上がる。
あたしはその意味がよく分からなくて彼の返事を待った。
「んー、どういう場合がダメで、
…もしかそうなっても何とか回避できる方法を探すとか」
「……そんな事できるのかな」
確かに、何がどうなのか自分でもよく分からなかった。
こうなったのは、志保とのストレッチと…そして今日の水城くんとのことだけだった。
そして今日のことで、あたしの手は本当に感じるようになってしまったんだって実感してしまった。
あたしは不安で、思わず水城くんをすがるように見てしまった。
彼は口を開いた。
「じゃあ、ずっと一人で悩む気?」
ホントにそうだ…。
「……それは、ヤだ…」
何か少しでも分かってそして解決できればと思って、あたしは水城くんの提案に乗ることにした。


日曜日に水城くんと会った。
まるでデートみたいな1日だったけど…。
水城くんに言われるまま、あたしは自分の手を触ってもらった。
そして彼に指まで舐められて…あたしは今まで感じたことのない強烈な快感を知ってしまった。
(イったのかな……)
よく分からなかった。
体がビクビクした。
…興奮するだろうと予想して、あたしはナプキンをして行ってた。
そうしてって、ホントに良かった。
その後トイレに入ったとき、あたしは自分でもビックリする程濡れてた。
トイレットペーパーでそこを拭いたら、経験したことがないぐらいにヌルヌルしてた。
水城くんは終始優しかったけど、…あたしの手を舐めてたとき、すごくいやらしかった。クラスメートが、突然皮を脱いで男の人になっちゃったって感じで。
…だけどあたしはそれがちっともイヤじゃなかった。
ちょっと水城くんの事が好きなのかもしれない。
少なくても全然キライじゃなかったし、…むしろもっと一緒にいたいって思ってしまった。

後で考えると恥ずかしい。
昼間の公園で、いやらしいことしてたなって思う。
だけど……そもそも手が感じてしまう自分がいやらしい。
こんなにもエッチだったのかと思って、自分の中の『女』を急に意識してしまう。


「桐柳」
教室で水城くんに声をかけられた。
「あぁ…水城くん」
あたしはそれだけで恥ずかしくなってしまう。
「この前は、…ありがと」
小さな声でそれだけ言った。
手のこともそうだけど、結局その後行ったゴハンまで水城くんに奢ってもらってしまった。
「今日も帰るの?」
彼が言った。
「うん……休部してるし」
陸上のことを考えるとやっぱりへこんでしまう。
離れてみると、あたしにとって部活って結構大事だったんだなって思う。
「そっか……。早く復帰しような」
爽やかにそう言って、水城くんは部活に行ってしまった。
今までほとんど喋ったことなかったのに、こうして話せるようになるとやっぱり彼はスポーツマンっぽい雰囲気の人だった。
彼のことを知れば知るほど、あたしの中で彼の存在感は増した。

夜。
あたしはベットに入って、自分の部屋に鍵がかかっているのを確認する。
あの日水城くんに舐められた自分の指を見つめた。
あたしはそれを自分のパジャマのズボンに入れた。
思い切って自分のあそこを触ってみる。
こうしてまじまじと触るのって、初めてだった。
水城くんにされたとき、ここがすごく濡れた。
女なんだなって思った。正直言って驚いた。
手を触られたりしただけなのに、体中が反応してしまった。

自分のあそこを触るあたしの指。

ただ触ってるって感じで、別に普通だった。
特に興奮もしてこなかった。
あたしは自分のそこに指を滑らせようとしたけれど、渇いていた。
自分の指の感触も、あのとき水城くんに触れた感じとは全く違っていた。
自分でくすぐってもくすぐったくないみたいに、あたしは自分の体をこの手で触っても何ともなかった。

あたしはズボンから手を抜いて、パジャマのボタンを3つ外した。
そして自分の乳房を露出させた。
少しずつ、大きくなってきてるなって思ってた。
それに最近は前よりも形が丸くなってきてるような気がする。
あたしの体のあちこち、女へと変化していた。
暗い部屋に、薄明かりが入って自分の胸にエッチな影を作る。
あたしはそっと乳房に触れた。

「うっ、…はぁっ……」

感じてしまう。
乳房に触れる手のひらが、あのときみたいに。
そのままお腹に触った。
別に何ともない。
また乳房に戻す。
(あっ……)
この感じだ。

柔らかい、この感触に指先が震える。

手が、感じてしまう。

「はぁっ…」
揉まれている乳房も、不思議に気持ちが良くなってくる。
ドキドキする。
あたしは興奮してきた。
テノヒラの中にある乳首が、固くなってるのが分かった。
あたしはそれを指先でつまむ。
「あぁ……」

気持ちいい……。

親指と中指で乳首を掴んで、人差し指でその先をさする。
「はぁ、…あぁ……」
触られている乳首の先がジンジンしてくる。
触っている指先まで、…あたしの体の芯を熱くさせるような感覚を呼び起こす。
手のひら全部がくすぐったい感じで、腕まで全部性感帯になっているような気がした。
「はぁ、…あぁんっ…」

もっとおっぱいを触りたくって、あたしはうつぶせに姿勢を変えた。
「うぅ……」
この形になると、自然に乳房が下に落ちる。
さっきより大きさを増した自分のおっぱいを、あたしは揉んだ。

(すごい……気持ちいい……)

あたしはどんどん興奮してくる。
さっきみたいに乳首を指先で擦る。
「はぁ、はぁっ……」
気持ちいい、…この前水城くんにされたみたいな感じが、体の中心から起こり始める。このまま、もっと……。
あたしはすっかりエッチな気分になっていて、パジャマのズボンと一緒にショーツもお尻が出るところまで下げた。

肩を枕につけて、四つん這いが崩れたみたいな格好になる。
パジャマを着たまま、そしてお尻だけを出している。
はっきりと濡れているのが分かった。
もしも向こう側から誰かが見たら、あたしの濡れたあそこは丸見えだろう。
そう考えると益々興奮してくる。
あたしの中の何かに火がつき、どんどんエスカレートしていた。

(あたし、…いやらしい…)

すごくいやらしい格好してる。
一人きりのこの部屋で……。

あたしは夢中で自分のおっぱいを揉んだ。
乳房が揺れるほど。
おっぱいが感じてしまう。
そして、それ以上に手が…。
手から起こる強烈な快感は肩に伝わり、背中を抜ける。
「あぁっ、…う、うぅっ……」
お尻を丸出しにした腰が揺れる。
触っているのは乳房だけなのに、何故かあそこまで感じてくる。
トロっと、自分の脚に何かが伝うのを感じた。
手が痺れそう。
でも止められない。
この丸出しになったお尻に、今おちんちんが入ってきたら…。
上半身と下半身の快感で、おかしくなってしまうんじゃないだろうか。
あたしは処女なのに下半身を誰かに愛撫されるのを想像する。
…どんどん興奮してしまう。


「うぁ、……く、うぅんっ…!」

あたしは枕に顔を埋めて声を殺した。

この前水城くんにされたときみたいに、……イってしまった。


「はぁ、はぁ、はぁ……」
上半身全部に快感の余韻が満ちている。
いつのまにかパジャマのズボンは膝の上まで落ちていた。
(イクって……すごい……気持ちいいんだ……)
あたしはとろんとしたまま、自分のあそこの方へ手を伸ばした。
「あぁっ……」
あたしのそこは自分の出した粘液でべちょべちょになっていた。
(こんなに出ちゃうんだ……)
自分の体なのに、こんなになってしまうなんてつい昨日まで知らなかった。
あたしは四つん這いの姿勢のまま、脚の間に手を伸ばした。
「あぁ、…んんっ…」
体が震えた。
さっきはちっとも感じなかったのに、今触れるとそれだけで気持ちがよかった。
ここを触っても指先は感じない。
だけど今さっきの余韻で、手のひらが痺れていた。

「はぁ、…んんっ…」
声を出してしまわないように気をつけた。
あたしはお尻を突き出して自分のそこを更に触った。
初めての自慰だった。
それなのに、こんなにいやらしいポーズで、…こんなにも感じてる。
多分いわゆるクリトリスであろうというその場所を、あたしは何度も触った。
「あぁ、…ん、…くぅ…」

まるで手が出してしまったみたいに、あたしの手のひらはベットリと濡れた。
あそこから起こる快感は、上半身の感じとはまた違っていた。
動物みたいに、あたしは自分を慰める手を止められなかった。

「んんっ、…んっ!…」

枕まで少し汚しながら、あたしは今夜2回も絶頂を味わった。


*****
昨日と変わらない今日が始まる。
それなのに、あたしは一晩ですごくいやらしくなってしまったと思う。
一晩…というよりは、水城くんとのあの日曜日以来だ。

セックスがしてみたい………って初めて思った。
授業中もそんなことばっかりを考えていた。
水城くんが斜め横、前方に座ってる。
彼とエッチしたらきっと気持ちがいいだろうなって、
…想像するだけであたしは授業中なのに濡らしてしまった。
あたしは水城くんに欲情してた。


「佳奈美!『阿藤階』の裏に神社があるの知ってる?」
『阿藤階』っていうのは、学校から出てちょっと行ったところにある蕎麦屋だ。
ごっつい親父が切り盛りしていて、美味しくてこの辺では有名だった。
「知らない、なんで?」
陸上から離れてから、最近は同じクラスの子たちとよく一緒に帰ってた。
「その神社さー、願い事が叶うらしいよ。高原が言ってた」
同じクラスの典江が言った。
「へー。高原ってなんかイイコトでもあったの?」
あたしたち3人は校門を出た。
典江の変わりに古田が答えた。
「ロトシックスが当たったんだって!」
「うっそ!ホントに?いくら??」
思わず言ってしまった。典江が答える。
「絶対金額言わないの!あれは高額、当たったっぽいよー」
「だから、あたしたちも…願かけに行ってみようよ!」
二人は乗り気だった。
あたしもちょっと信じる気分になってくる。

この時間は閉じている『阿藤階』の角を曲がって、あたしたちは歩く。
突き当たりの道を右に行くと、すぐに小さな神社があった。
こんなところに神社があるなんて、知らなかった。

「じゃあ、願、…かけるよ!」
古田が言った。
「何お願いするの?」
あたしがそう言うと、古田が渋い顔をする。
「言っちゃぁ、ダメだよ。願い事は」
「そっか」
あたしは小銭を投げた。
「すごい、太っ腹!100円じゃん!」
典江が突っ込みを入れてくる。
「あたし、…結構真剣だから」
あたしは答えた。

サイフをしまいながら、あたしは考える。
『元の生活ができますように』
それをここのところ、あたしは何度心の中で祈っただろう。

あたしは『ガラガラ』をガラガラして、手を合わせた。
こんな時に、この手のひらを合わせるなんて、なんだか皮肉だなって思った。
あたしたちは、しばし黙って祈った。

「さーてと、ちょっと小腹が空かない?」
境内を離れて、古田が呑気に言った。
「ちょっと寄ってこうよ」
3人で神社を後にする。
9月の日差しはまだまだ暑くて、ちょっと歩いただけでもノドがカラカラになってた。
「佳奈美って陸上部だったのに、ホント色が白いよね?」
「一応、日焼け止め塗ってたから」
あたしは笑って言った。帰宅部の典江は真っ黒に日焼けしてた。


本当はこのテノヒラが治るようにお祈りしなきゃいけなかったのに―――

あたしの心に浮かんだのは水城くんのことだった。




~「G」(テノヒラ2)~ 終わり

 

   

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